戦略策定

はじめに

 どんなに素晴らしい新商品・新事業も、これを顧客に販売して収益を上げることができなければ、ひとときの泡となって消えてしまいしまいます。
 そこで新商品・新規事業が顧客候補の方々に認知され、購買行動を起こしてもらわうように具体的な作業を行いましょう。
 これを実現するための具体的な活動として、カタログ、ポスター、Web、映像、発表会や展示会・・・・の様々な伝達手段で、狙った顧客に新商品の素晴らしさを伝えて行く活動を行います。

戦略視点から考察する
 新商品・新規事業の カタログ、ポスター、Web、映像などを効果的、効率的に準備していく作業の流れの一例が図のようなスケジュールです。
 新商品の発表から遡ってどれぐらい前の期間に何を準備するのか、各工程の前後の関係についてご理解ください。

 そして、まず全ての出発点に戦略の考察が必要となってきます。このページでは、(1)戦略策定について深掘りします。


この段階で用意するもの

 「戦略の失敗は戦術では取り戻せない」ということはご存じでしょう。戦略が曖昧で、資料への記述も曖昧なままの段階で、カタログ製作、Webページの製作などの戦術行動に突入しないよう事前に知恵を絞った努力を十分にしておく必要があります。
 もちろんカタログ製作やWebページの製作を進めていく中で、戦略の方向性に課題や誤りを発見して、戦略の段階に遡って修正を行うこともあります。それは失敗ではありません。 私たちは全知全能の神ではありません。課題の改善に早く対処することができれば失敗とは言えないでしょう。とは言え、最初から後々の手直しを想定して戦略策定をいい加減にしてはいけません。


確認していくこと

 「彼を知り己を知れば百戦危うからず 」の孫子の兵法の名文句を知っているでしょう。 まず、敵(彼)を確認しましょう。最初に、お客様という難敵です。次に、競合という本当の敵です。隠れた敵として法令や社会情勢などもあります。そして、己も知りましょう。

  • 彼を知る1(顧客について考察します)
      考察を助けるフレームワークとしては、イノベーター理論(普及理論)プロダクトライフサイクル論、STPなどがあります。
    ■まず、顧客について考察します。
     例えば、新商品がプロダクトライフサイクル論で導入期にあるステージにある場合、これを買ってくれる顧客はイノベーターと言われる属性を持つ人達や企業です。イノベーターの属性にマッチする内容でカタログを作ることが効果が高くなります。
     同様に、プロダクトライフサイクル論の成長期である場合は、・・・・。成熟期である場合は、・・・・。衰退期である場合は、・・・・・と、ステージにより異なります。これを念頭に入れて以下の作業をすすめていくことになります。プロダクトライフサイクル論とイノベーター論のフレームワークを確認しながら考察をしてください。
    ■また、顧客の属性についても考察します。
     ・個人向けである場合 年齢、性別、地域、職業、家族構成・・・・?
     ・法人向けである場合 どの業種、業界・・・?
     これには、STPやペルソナマーケティングのフレームワークが有効になります。  なお、法人の場合は、業界をできるだけ深掘りする必要があります。例えば運輸業という大ぐくりなターゲットで顧客層を設定してはダメです。さらに、トラック、鉄道、船、オートバイ・・・・? 一般貨物、飲食物、冷凍・・・・? 長距離輸送、個別配送、ルート配送・・・・? と、新商品・新サービスが使われるシーンを具体的に想定しながらいくつかの候補に絞り込みを行います。
     また、法人の場合は、商品を"買う人"と"使う人"が異なることが多々ありますので注意が必要です。例えば、トラックのドライバーに使ってもらう商品であった場合、トラックドライバー向けに売り込みをするのではなく、ドライバーを管理する運行管理者が売り込みのターゲットとなります。つい、商品を使ってくれる人をターゲットとしてしまいそうになりますが、法人の場合は商品の購入する決定権のある人が別にいるケースも多く、この立場の人の琴線に響くようにカタログ等を作って行く必要があります。

  • 彼を知る2(競合や環境について考察します)
     考察を助けるフレームワークとしては、5Forces分析やPEST分析があります。目先の敵のみならず、パートナーの動向や業界動向の変化も考察します。
     また、マーケティグ4Pも考察を助けるフレームワークとなります。競争相手の商品・サービスの比較(Products)、価格やと得点などの比較(Price)、販売ルート、販売店、店員の力量などの比較(Place)、広報、宣伝などの商品アピールの活動の比較(Promotion)の視点で比較をして分析しましょう。
     注意すべき点は、「それは、顧客にとって有意義な特長なのか?」という問いかけです。顧客価値です。顧客価値を考慮せず、競合のカタログを分析した比較表を作ってはダメです。つまり、「顧客を見て、競合と比較する」=○ 「顧客を見ずに、競合と比較する」=× です。

  • 己を知る
     考察を助けるフレームワークとしては、VRIO分析があります。自己の強みをVRIOのフレームワークに照らして考えます。同様に競合のVRIOも考えます。ただし、VRIOのフレームワークは、プロダクトライフサイクルの初期段階(導入期から成長期の初期段階)には効きませんので注意が必要です。 また、SWOT分析のフレームワークも自己の強みを確認することに有効です。
     自己の強みを分析する際は資料を見つめているだけではなく、積極的に関係するメンバーとお話をしましょう。人を感動させるのは人の力です。顧客に感動してもらうためには、新商品・新サービスの企画や開発や製造をした人の熱意を聞き、これを反映させることも大事です。メールでのやりとりではなく会ってお話することが良い新商品カタログを作る上で欠かせません。
     ただし、商品企画や開発者の意見を100%まともに聞いてはいけません。「こんなに凄い技術で、業界初の機能を搭載したんだ!」と喜び勇んで説明してくることもあるでしょう。でも、様々なフレームワークで検証された事実ではなく、個人の主観となりますがら、これを商品・サービスの特長としてすぐに書き並べるようなことはしないよう注意しましょう。 インタビューは大事だが、事実を語っているとは限らないのです。冷静に整理して、情動的な面と分析的な面の両方を持ち合わせて、熱い魂をクールに包んで己が行うべき行動を考えましょう。
     また、競争戦略ランチェスターの法則のフレームワークでも考えます。自分が、強者の戦略をとれる場合と、弱者の戦略を取る場合では、顧客へのアピールのやり方も変ってきます。例えば、幅広くアピールするのか?、狙い撃ちのアピールをするのか? です。
     注意すべき点は、「それは、顧客にとって有意義な特長なのか?」という問いかけです。顧客価値です。顧客価値を考慮せず、自己の強みを列挙した表を作ってはダメです。つまり、「顧客を見て、強みを確認する」=○ 「顧客を見ずに、強みを確認する」=× です。


  • 顧客にどんな価値を提供できるのか?
     考察を助けるフレームワークの中で、一番大事なものが顧客価値です。
     顧客は「お金に見合う価値」を感じなければ商品やサービスを買いません。あなたも日々、消費者として感じているごく普通のことです。この感性を大事にしましょう。 カタログ製作の主目的は、商品を告知することよりも価値を告知することです。手段と目的を間違えないようにしましょう。(目的=価値を提供する。手段=商品やサービスで。)考察を助けるフレームワークとしては、顧客価値で見直してみましょう。
     日本のビジネスパーソンに人気の高いドラッガー氏も顧客と価値について、いろいろと名言を述べております。以下に参考に記載しておきます
      『顧客にとっての価値は何か』→「最も問うことの少ない問いである。答えは明らかだと思い込んでいるからである。品質が価値だという。この答えはほとんど間違いである。顧客は製品を買ってはいない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。」


フレームワークの利用で戦略視点の考察を行う

 どのように考察をすすめて行けば良いのでしょうか。センスを磨けというような抽象的な話や根性論的な話では困るでしょう。そこでビジネスの武器と言えるフレームワークを道具として考察に使うのです。
 これによって戦略思考で考察を進めることができるようになります。また、個人の経験や感情のような属人性を排して論理的に進められるようにもなります。

武器庫を確認
 ・「顧客価値」「プロダクトライフサイクル論」
 ・「イノベーター論」「キャズム」「競争戦略」「5FORCES」「VRIO」「ランチェスターの法則」
 ・「マーケティングの4P」「SWOT分析」

 商品・新規事業に有効な主要フレームワーク → 10大フレームワークの解説

フレームワークを選ぶ
フレームワークを選ぶ
 まず、普遍的に必要となる 顧客価値のフレームワークとマーケティング4Pを理解してください。
 次ぎに、プロダクトライフサイクル論を理解し、あなたの新商品、新規事業がプロダクトライフサイクル曲線上のどの位置(ステージ)にあるかを把握しましょう。
 そして、あなたの商品が位置するステージで特に有効となるフレームワーク(複数)の理解を深めましょう。例えば、成長期の前半であれば、イノベーター論で、顧客の行動特性を把握します。顧客の琴線に響く、アピール5要素を考えます。 また、この段階では競争戦略を決めなければなりません。競争相手との違いを差別化ポイントとして、盛り込むようにアピール5要素を考えます。その際、5FORCESのフレームワークで、敵対する競合との関係や、それ以外のあなたの新商品・新規事業を取り巻く環境を見回して、有利になる点はアピールポイントに盛り込みます。 この段階では、キャズムに陥って失速しないように注意することも欠かせません。この段階ではVRIOの効果は限定的ですので、注意しながら活用しましょう。まだ強みと思えるものが、本当の強みとして信じても良いかに懸念が残る段階です。
 キャズムを越えたら、VRIOのフレームワークを用いて自らの強みに、抜けや漏れが無いよう客観的・分析的に確認します。有効な強みはアピールポイントに加えます。
 何よりも終始一貫して、顧客価値が表現できているかのチェック欠かさず行います。


  • 顧客価値
     顧客価値は、「お客様へのお役立ち」と言い換えても良いでしょう。あなたの商品がどんなに優れているとしても、顧客に何からのお役立ちが提供できるものでなければ買ってもらえません。 「そんなの当たり前でわかっているよ」という声も聞こえてきそうではありますが、私の過去のビジネス経験で、これを常に念頭において、戦略を、戦術を、活動を、反省を、していた人はほとんどいませんでした。(常にというのがポイントです。)
     例えば、「あなたの商品を説明してください」と訪ねると、多くの場合、「従来よりも軽い」「他社より性能が優れている」という説明をする人が多いのが実情です。これはダメな例です。
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→顧客価値

  • プロダクトライフサイクル論
     世の中に出たばかりの全く新しい商品と、ある程度普及している商品では、新商品の作り方も売り方も違うことはなんとなくわかっていると思います。この現象を体系的にまとめたものがプロダクトライフサイクル論です
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→プロダクトライフサイクル論

  • イノベーター論
     新しいモノが出ると飛びついて、すぐに試して見たがる人もいれば、そうした人を見て(クチコミを確認して)から判断して買う人もいます。あるいは、かなり普及して値段がこなれてからようやく買う人もいます。「新しいモノに飛びつくなんてアホだ。今でも十分じゃないか」なんて言う頑固者の人もいます。これを体系的にまとめたものがイノベーター理論です。
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→イノベーター理論

  • 競争戦略
     よほどの理由がない限り、あなたが行うビジネスは、コストリーダーシップ戦略か、差別化戦略か、集中戦略かの3つのパターンのいずれかの戦略を取ることになります。
     たった3つの種類に分類できるなんて、「簡単だけど、本当かいな?」と思われるでしょう。このフレームワークは発表されてから、かれこれ30年も経ちまして、その間に様々な検証がされてきましたが、実際に多くの事業の栄枯盛衰を検証した結果からも、このフレームワークは補強されて有効性のある経営戦略策定ツールとなって現在に至っています。
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→競争戦略

  • 5FORCES
     うまい経営をするならば、儲かる環境に身を置くこと、そして環境を分析するには5つの要素で競争の状態を分析しようと言うフレームワークです。釣りの達人ならば魚が釣れる竿を下ろすポイントを知っています。同じように、ビジネスがうまく行くポイントに進出しましょう。
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→5FORCES

  • VRIO
     うまい経営をするならば、強みを持つこと。そして強みを分析すると4つのパターンに分けられると言うフレームワークです。その頭文字を並べてVRIOと言うのです。
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→VRIO争戦略

  • マーケティングの4P
     マーケティングの4Pとは、ビジネスを成功させたいならば、「製品:Products」・「価格:Price」・「販路:Place」・「プロモーション:Promotion」の4つの要素でチェックする活動を行うフレームワークです。マーケティングミックスとも言われたりもします。
    ※詳しくは、別ページのこちらの解説を確認してください。→マーケティングの4P


最後に

 KDD(勘と、度胸と、出たとこ勝負)で適当に決めるようなことでは、新商品・新規事業の成功は逃げてしまいます。戦略の誤りは戦術では取り戻せません。
 たった1枚のカタログを作ろうと思っても、そこには戦略が宿っていなければ、顧客候補の心を射抜けない”ただの紙切れ”になってしまいます。カタログの表題にするキャッチフレーズを考えるならば、誰に、どういう説明を? ライバルの動きは? 自分の強味は? 強みをどう押し出す? あるいは弱みは? 弱い点をどうカバーする?・・・と、押さえておくべき要素は一杯あります。具体的な実践活動に入る前に、フレームワークを利用して戦略視点で考察をしておきましょう。

 次のステップは、ここで考察した戦略(目に見えない)をベースに、具体的な資料(目に見える形にする)に変換する取り組みます 訴求点明確化資料の作成 です。