プロダクトライフサイクル論
プロダクトライフサイクル論の重要度ランキング
重要度 | A | ||
リーダー必要度 | ★★★★★ | 必須教養 | 基礎的な教養と言えるでしょう |
理解容易度 | ★★★★☆ | 容易 | 中学校の授業に入れても良いぐらい簡単。生物の進化論と同じぐらい。 |
活用容易度 | ★★☆☆☆ | やや難 | 方向性は示してくれるが、具体的に何をするのかは自分で考える必要がある |
はじめに
新商品・新規事業を担うリーダーにとってプロダクトライフサイクル論は、理解&利用が必要不可欠なフレームワークです。
皆さんも経験則でうすうすわかってはいる簡単な現象を体系的にまとめたものがプロダクトライフサイクル論です。だから理解は容易です。
しかし、プロダクトライフサイクルの現象を理解することは容易ですが、具体的なアクションを決心していくためには、プロダクトライフサイクル論のフレームワークの把握だけでは足りません。
プロダクトライフサイクル論は他の著名なフレームワークに比べて具体的なアクションまでを導いてくれないフレームワークなのです。具体的なアクションを決めていくためには、さらに普及理論(イノベーター論)、マーケティングの4P、競争戦略、ブランド戦略、キャズム、経験曲線、規模の経済・・・などの複数のフレームワークを把握して、組み合わせて使えるようになるまで理解を深めていかなければなりません。
つまり、プロダクトライフサイクル論は、理解することは容易ですが活用するのは難易度がやや高いフレームワークなのです。このためでしょうか? プロダクトライフサイクル論のフレームワークの解説はよく見かけても、新商品・新事業を担うリーダーが真に欲しい「具体的なアクションプランまでの解説」をしてくれる講義や書籍類は案外少ないのが実情です。
このページでは、プロダクトライフサイクル論を軸に、幾つかのフレームワークを組み合わせて、新商品・新規事業のリーダーを担う皆さんが求める具体的なアクションプランまで突っ込んで解説・提案を行います。
概要
皆さんも、”世の中に出たばかりの全く新しい商品”と、”ある程度普及している商品”では、新商品の作り方も売り方も違うことはなんとなくわかっていると思います。
そして、プロダクトライフサイクル論では各段階を4つのステージに分け、初期段階から、導入期、成長期、成熟期、衰退期と呼びます。
略してPLC理論と記載されることも多くあります。
- 導入期
いろいろな会社が試行的に新商品を投入します。ベンチャー企業も産まれます。こうして競争相手となりそうな企業は多々登場してきます。しかし、誰が有力になるのかはわからない状況です。
商品それ自体もまだ未成熟で、粗削りです。量産が進んでいないこの段階では生産コストもかかるため商品価格も高くなりがちです。まだ商品・サービスにより提供されるメリット(顧客価値)が未知数であるため、購入する人はそう多くはありません。
このステージの需要は、まだ一部のチャレンジャブルな人が先行して購入しているという市場の状態です。つまり、普及理論の[イノベーター]が主な顧客となります。
- 成長期
成長期の前半は、先進性があり、かつ実用性も認められるような商品を採用する普及理論の[アーリーアダプター]が主な顧客となります。
より市場への浸透を早めで競合に打ち勝つために、商品開発や販路の拡大、宣伝活動などを積極的に行っていく必要があります。売り上げは伸びますが、投資も大きくなるため、利益はあまり出ない状態です。
自社のおかれたポジションから、競争戦略を決めていく段階になります。
成長期の途中に業界の成長が突然止まり、業界自体が衰退してしまうことがあります。この現象はキャズムと呼ばれています。成長期のステージでは、キャズムに陥らないようにキャズム理論を理解しても取り組む必要があります。
キャズムを越えて成長期の後半を迎えることができると、経験曲線や規模の経済などの効果により、生産コストの低減に成功した商品が価格競争で有利に生き残れるようになります。価格の競争も激化していきます。このため脱落する企業も現れるようになります。次第に業界の覇者の座をめぐる競争相手となりそうな企業が明確になってきます。また、企業買収による合従連衡も進みます。
この成長期の後半の主な顧客は、普及理論の[アーリーマジョリティ]となります。
- 成熟期
商品の差別化が難しくなり、価格競争力やブランド力を発揮できる商品が優位になります。勝者となった企業は、プロダクトライフサイクルの期間中、最も利益を得ることができるようになります。
逆に言えば、この時点までに価格対応力や、知名度・実績・ブランドを確立できていなければ、そうした企業は淘汰されていきます。宣伝内容も商品の特長を訴求するよりも、実績やブランドのアピールに力点が移ります。
主な顧客は普及理論のレイトマジョリティからラガードが顧客として加わります。また、これ以前に購入していたイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティによる2台目、3台目の追加購入、買い替え購入も行われます。
- 衰退期
しかしながら、残存者利益を享受できる企業もありますのでビジネスのチャンスはあります。例えば、アナログ式の腕時計はもう発展が見られない商品ですが、一部の有名ブランド商品は非常に高額で利益も少なくありません。
一方で、カーナビのように、スマホに市場を奪われてしまい残存者利益を享受できる企業が存在しなくなってしまうケースもあります。しかしながら、カーナビの事業がなくなっても自動運転技術の基礎技術としてカーナビの開発で培ってきた高精度な地図のような一部の資源が高く売れる可能性もあるので、衰退期といえどもビジネスチャンスはあるので気を緩めることはできません。
さらに深くこのフレームワークを掌握するために、以下の情報も参考にしてください。
- 映像
GLOBIS 知見録 → プロダクトライフサイクル(PLC)とは?マーケティングの基礎用語を動画と記事で解説【特選】
ビジネススクール「グロービス」が提供する動画学習サービス(お試し)→ 製品ライフサイクル
- 以下のフレームワークも習得するとプロダクトライフサイクル論の理解が深まります。
・イノベーター論(導入期、成長期、成熟期)
・キャズム(成長期)
・競争戦略(成長期、成熟期)
・VRIO(成長期(後半)、成熟期、衰退期)
・ブランドエクイティ(成熟期、衰退期)
・イノベーションのジレンマ(導入期、衰退期)
演習:ケーススタディ(具体的な商品の事例で考察)
では、具体的にはどんな商品がそれぞれのステージにあるのでしょうか? 以下に商品の例を示しながら説明をします。
また、読みながら、あなたが担う新商品・新事業がとのステージにあるか考察してください。これが一番大切なことです。(受動的に読み進めるのではなく、能動的に考えることが大事です)
- 導入期
ウェアラブルデバイス(スマートウォッチやスマートグラス(眼鏡))なども導入期のステージにある商品と言えるでしょう。まだスマートフォンのように続々と参入する企業が現れ、熾烈な競争を展開するような段階には至っておりません。 そして、まだまだ予想外の技術の発展が起きて、それに対応したさらに画期的な商品が出てくるようになるのか、まだまだ先は見通せません。
他には、自動運転、VR(仮想現実)、5G通信サービス、量子コンピューター、ドローン、太陽光発電、植物工場、民間宇宙ロケット、再生医療・・・などが導入期にある商品やサービスと言えるでしょう。
太陽光発電は国内では良く見かけるようになってきましたが、補助金などの政治や行政の支援の上で展開している段階に過ぎず、純粋な市場のニーズに基づくような普及が進展しているとは言えないと考えられます。 今後、光合成の仕組みを応用して発電効率が2~3倍に増すとか、屋根材に貼れるような素材でコストは半分以下になるような技術や製法のジャンプがあれば導入期から成長期に推移していくでしょう。
- 成長期
他にも成長期の前半にあるのがNet配信映像のサービスです。多くの新規参入者で熾烈な陣取り合戦が繰り広げられています。このまま複数のサービスが併存するのか、わずかなベンダーに淘汰されていくのか、まだわかりません。
他にも、スマホゲーム、電子書籍、Netショップ、SNS、クラウドサービス、暗号資産(仮想通貨)・・・ などでは参入者が続々登場する熾烈な競争となっています。
一方、スマートフォンは成長期にありますが既にその後半に入った商品と考えられるでしょう。たった10年あまりで世界中に普及しました。現在も成長が続いていますが、これを必要とする人々への普及が実現するにつれ、その成長は鈍化してきております。 スマートフォンの競争に今から新たな参入者が加わることは多くはなく、プレーヤーは次第に淘汰されて少なくなり始めています。 LED照明も需要は拡大しておりますが(国内において)普及は一巡して成長は終わりつつあります。今後は買い換え需要を主体とする成熟期にステージが移っていくでしょう。
- 成熟期
パソコンも成熟期に達した商品と考えられるでしょう。パソコンは、1995年にマイクロソフトから発売されたWindows95とセットになって急速に普及しました。 しかし現時点では、マイクロソフトは現在供給中のWindows10以降のエンハンスを行わない方針を発表しており、もう事業の成長は期待されていない商品となっています。 マイクロソフト自身は、もう成長しないパソコンのOS(Windows)やパソコン用アプリケーション(MS-OFFICE)の事業には見切りを付けて、クラウドの事業に切り替えることで企業としての成長を持続させることに取り組んでいます。
カーナビも成熟期にある商品といえるでしょう。普及は頭打ちから減少に転じています。しかし、これからの成長が期待されている自動運転の技術に、カーナビのコア技術が展開できることからこれを有する企業は形を変えて、新たな成長が期待できる展開になっています。 成熟期の後半では撤退したり、売却されたりする企業が出てきますが、カーナビのコア技術のように、導入期に戻って新しい成長を始めることもあります。
- 衰退期
コンピュータの世界では、メインフレームコンピュータは衰退期にある商品と考えられるでしょう。レガシーなシステムにおいて運用され続けており、まだIBMや富士通などは商品を供給し続けております。1980年代はコンピュータの世界の主力商品でしたが、今後はコンピュータの脇役として細々と存続している存在です。
またアナログの腕時計も衰退期の商品です。機械式のアナログ腕時計の販売は需要のピークは昔に過ぎて今や期待できるような商品ではありません。しかし、スイス製などのブランド品の高級腕時計は高額で根強い販売をしております。日本製でも高額な商品は残されております。 どの時計も、時間を読み取るぐらいの機能しか無く差はありません。値段が3倍でも3倍の性能はありません。性能はデジタル式の1000円程度の時計よりも高いものではありません。
このように衰退期では、高性能や多機能や低価格で商品が選ばれるのではなく、ブランド力が命運を分ける大きな要素となるものもあります。
ブランドは衰退期になってから努力して獲得できるものではありません。ブランドは成長期、成熟期の時間によって獲得された経営資産です(ブランドエクイティと呼びます)。 オメガやロレックスのような高級時計のような例がある一方で、コカコーラーのような大衆商品でもブランドを獲得している商品があります。ブランドを獲得している商品であれば衰退期になっても売り上げと利益を得続けることができるのです。 しかし、衰退期になれば必ずしもブランドを得る商品が登場するかと言えば、そうでもありません。電球やラジオのブランド品などを見たことがありません。ブランドは努力しないと得られませんが、努力すれば必ず得られるものでもありません。ブランドエクイティの考え方は別途把握してください。
よくある失敗・注意点
あなたの上司先輩同僚はプロダクトライフサイクル論をご存じでしょうか?そしてプロダクトサイクル論から導かれる様々なフレームワークを活用した具体的なアクションプランを論議しあえるスキルを持っているでしょうか?そもそも、新商品がどのステージにあるのか理解して仕事をされているでしょうか?
導入期のステージにある商品なのに、数値目標を立てて全国販売網で売ろうとする営業部長・・・・とか。 成熟期のステージにある商品にあるにも関わらず、コストアップとなり価格序上昇となってしまう差別化の技術開発にいそしむ開発課長・・・・とか。あなたの近くにいませんか?
- 導入期
しかし、その後、液晶ディスプレイの技術が大きく成長してプラズマディスプレイよりも優れた表示ディバイスとなりました。そして、プラズマディスプレイは薄型TV用のデバイスとしては競争力の無い商品となってしまいました。 パナソニックは急ぎ液晶ディスプレイの事業を手に入れるべく日立から事業を買い取ることになります。これには多大な追加投資を必要としました。
このように、まだ導入期の段階であるのにも関わらず、早計な判断を下したことで多大な経営損失を招く結果になったのです。
一方で、サムスン電子は、日本企業を追従して状況を見極めるためか、液晶ディスプレイとプラズマディスプレイの両方の事業を継続して持ち続けていました。この段階では早計、軽率な判断をしなかったのです。 LG電子もそうでした。戦略的ミスを犯さなかったサムスン電子とLG電子は、後に、日本のエレクトロニクスメーカーの薄型TV事業を追い抜き業界の覇者となります。
かつてのパナソニック(松下電器)は、ダム式経営と称して、様々な事業や要素技術を蓄積して保持する経営を行っておりました。 このため、ソニーなどが売れそうな商品と出すと素早くキャッチアップして商品化を行い逆転劇を仕掛けるため”マネシタ電器”と揶揄されたりもしました。 もしこの経営手法が健在であれば、パナソニックは液晶ディスプレイをこの段階では手放すことなくもう少し保持しつづけて、大失敗に至らずに済んだ可能性があります。 つまり、まだ導入期にある事業は、「集中と選択」などと締め付けずに”泳がせておく”経営者の力量が必要なのです。実際、サムスン電子はそのような手法を取り、薄型TVの事業を制することになりました。
このステージの段階では、今後どのように市場や業界の発展が行われるのか不確実性が高く、誰にも予想はつきません。 それにも関わらず、データ分析をして戦略を決めようとすると、これから伸びる可能性のある新商品・新規事業を潰してしまうことが良くあります。 - 成長期
例えば、iPhoneが大ヒットする前に、ブラックベリーというスマートフォンがありましたが、一部の人々には強く支持されたものの大衆には普及しませんでした。イメージとしては金融関係や弁護士などのエリート系の人々(イノベータ理論で言うところのアーリーアダプター)の高性能な携帯電話でした。
後から登場したiPhoneがあっという間に普及したことによりブラックベリーは一度消滅してしまいました。iPhoneが登場する前に、ブラックベリーがアーリーマジョリティにまで普及が進んでいれば、今とは違うスマートフォンの発展の姿が見られたでしょう。
また、最近では暗号資産(仮想通貨)はキャズムを迎えて立ち往生しているのかもしれません。暗号資産の話題性は高いものの多くの人々が日常的に使うような展開には至っておりません。成長期の前半で足踏みを続けて成長が滞ってしまっているように見えます。
- 成熟期
このように成熟期になれば性能向上・機能の充実よりも価格や簡便性がより重要になってくるのに、ステージの変化に応じた商品の開発や販売に活動を切り替えることができなかったため失敗してしまう残念な例は少なくありません。 「モノ作りニッポン!」のマスコミの煽りに載せられて、高性能・高品質を追求し続けることが正当な企業活動であるかのような誤解が広がっていたからかもしれません。
なお、シャープのクアトロンの事例は、顧客価値のフレームワークでも失敗例として、より詳しく取り上げておりますので、そちらでも確認してください。
- 衰退期
例えば、ポータブルラジオは衰退期の商品ですが、ポータブルラジオには腕時計のような有名なブランド品はありません。かつてソニーがトランジスタラジオによって、世界的にポータブルラジオの分野で有名になった歴史があります。 しかし、ソニーは、この商品を衰退期になっても売れ続けることができるようなブランドを作り上げることができませんでした。ソニー自体がブランドとして名を馳せることができましたのでソニー社内でもラジオの分野でのブランド化には興味を持つ人はいなかったのでしょう。
似たような業界のスピーカーの分野では、BOSEがブランド品として認知されているのですから、ソニーももう少し努力をしていれば残存者利益を得る機会が得られたかもしれません。少しばかり勿体ないことです。
新商品を成功させるためには
あなたの新商品・新規事業を成功させるためには、あなたの新商品がプロダクトライフサイクル論の4つのステージのどこにあるのかを理解し、そのステージに適した行動をすることが成功には不可欠です。
そのためには、各ステージにおいて効果を発揮するフレームワークを理解し、これを組み合わせて考察することが戦略を決めていく上で有効となります。
ただし、どのステージであっても、顧客価値のフレームワークは常に念頭において分析、検討をしていくことは欠かせません。また、戦略の実行段階においても、マーケティングの4Pのフレームワークは、全ステージで有効になるフレームワークとなります。
この2つのフレームワークを押えた上で、各ステージごとに有効になってくる戦略がいろいろありますので、別途、各フレームワークの理解を深めてください。
キャズムを越えたら、VRIOのフレームワークを用いて自らの強みに、抜けや漏れが無いよう客観的・分析的に確認します。有効な強みはアピールポイントに加えます。
何よりも終始一貫して、顧客価値が表現できているかのチェック欠かさず行います。
このように新商品・新規事業を成功させるためには、様々なフレームワークを組み合わせながら戦略を考察する必要があるのですが、ここでは、プロダクトライフサイクル論の各ステージごとに、マーケティングの4Pと競争戦略を組み合わせた考察を説明します。
つまり、各ステージで、どのように商品(Products)を作って、値段(Price)付けて、販路(Place)を準備して、アピール(Promotion)すれば、人々に買ってもらえるのかを確認していきます。なお、成長期は前半と後半に分けて5つのステージで考えます。
- 導入期
導入期の段階で、新商品の購入に興味を示してくれるのは普及理論のイノベーターです。彼らが主な顧客となります。イノベーターは好奇心旺盛です。先進性のアピールによる話題提供で集客していくことになります。 ただし、次に控えるアーリーアダプターの心を捉えなければ事業の成長・発展に繋がりません。つまりブレークしません。だから先進性だけではなく、次第にアーリーアダプターの心を捉える実用性も備えていく仕込みも忘れてはなりません。
★Products
目新しさを好む人を満足させるように、商品自体には、話題となる性能・機能が盛り込まれていなければなりません。また、デザインも先進的なものとします。 例えば、デザインは商品自体もハコもカタログも・・・・と一貫させることも大事になります。
★Price
まだ生産コストが下げられず価格は高くなってしまいがちです。しかし、幸いなことに、イノベーターはあまり価格についてうるさくありません。実用性から見て多少割高でも容認してくれます。 しかし、あまりにも価格設定をルーズに考えると売れませんので、収支が赤字になっても敢えて買っていただける価格を設定する必要があるかもしれません。この段階では価格設定は企業体力との相談にもなります。
★Place
好奇心旺盛なイノベーターの人々は、商品を買いにやって来てくれます。販売網を広げることよりも、スペシャルな場に来てもらえるように誘導することが大事です。 例えば、特定のショップや、Webサイトに特設サイトを用意することです。場合によっては、どこでも買えるよりも限定販売にすることでプレミア感が高まりイノベーターの琴線にも響く効果があるでしょう。
★Promotion
先進性や貴重性などのプレミア感をアピールすることや、例えば、”世界初の最先端技術を採用している”ようなことをアピールします。広いマス広告よりもイノベーターの人々が行動し、閲覧する場所に露出させる狙った広告を行う必要があります。
イノベーティブな商品としてマスコミで記事に取り上げてもらえる機会を捉えて、マスコミ向けに説明の準備をしておくことも必要です。新聞の見出しになる10文字前後のキャッチフレーズや流行の用語を作り出すことを考えましょう。
- 成長期(前半)
そして、アーリーアダプターによる購買行動が確認されるようになれば、導入期から成長期へのステージが進んだと考えられますので、導入期とは違う対応が必要になります。 すなわち、これから新商品の販売が伸びていくことが見込まれますので(不確実性が減ってくる)、今までよりも市場へのアピールを高めていくことになります。つまり経営資源の積極投入が必要になります。
ここで出遅れるとスタートダッシュに失敗した陸上選手のようにライバルの後塵を拝することになり、新商品・新規事業での勝利は遠のいてしまいます。 逆に、まだ大波が来る前にサーブボードに立ち上がってもボードは進みませんし、本当に波が来たときにコケてしまいます。つまり、新商品・新規事業を担うリーダーは、ステージが切り替わるタイミングを見極めることが重要となるのです。
また、このステージになると、競争戦略の3つの戦略のいずれかを選んだ活動を行う必要があります。中途半端な立ち位置でいることは危険でさえあります。もし、コストリーダーシップ戦略を採用するのであれば、大量生産、大量販売を実現する活動に舵を切ります。 一方、差別化戦略を採用するのであれば、ライバルとの違いが明確になるようにマーケティングの4Pの全てに配慮して準備をしなければなりません。
アーリーアダプターはオピニオンリーダーとして、この後の需要を担うアーリーマジョリティに影響を及ぼします。この後、成長期の途上でキャズムに陥って成長が躓かないように、アーリーアダプターからアーリーマジョリティに成長の流れが繋がっていくように注意を払う必要もあります。
★Products
アーリーアダプターも新しいモノが好きですがイノベーターよりも冷静に分析をします。商品やサービスの性能・機能が、自分にとって費用を支払う価値のある役立つモノであることが必要です。先進的でありながら実用性も説明できる商品に仕上がっていなければなりません。新商品のお役立ちを(すなわち実用性を)顧客価値のフレームワークで特に入念に考えましょう。
ライバルとの比較競争も高まりますので、競争戦略で選択した戦略にふさわしい特長を商品に与えていくことが必要となります。価格で勝つのか、性能で勝つのか、力点をどこに置くのかを考えることは商品開発の投資においてブレないよう注意することが必要です。
★Price
顧客価値(メリット)をコストパフォーマンスで説明ができるような価格設定でなければなりません。競争戦略でコストリーダーシップ戦略を採用した場合は、競合の価格設定を意識せずにはいられなくなります。
まだこのステージの段階では、新商品の4Pの充実に投資が必要で、事業の収支はまだ赤字になっていることも多いでしょう。企業体力と相談しながら価格を決めていく必要があります。成長期の後期に利益を獲得できるまでの我慢比べにもなります。
★Place
イノベーターの方々を対象としていた時よりも販売網、サービス網を広げていくことが必要です。特に、競争戦略でコストリーダーシップ戦略を採用した場合は、アーリーアダプターの行動範囲のレベルで難なく商品やサービスが入手できるような販売網・サービス網の整備が必要です。 一方、差別化戦略を採用した場合は、どこでも手に入るという程の広い展開は不要です。それよりも販売に携わる人がきちんと商品を説明ができる(差別化が顧客に伝わる)ように教育ができていなければなりません。販路において量より質が大事な段階です。
★Promotion
アーリーアダプターの方々に対して、先進性のアピールに加え、その先進性により得られるお役立ちのアピールが必要です。きちんと商品を理解してもらえるよう、Webページの充実やプロモーションビデオの作成などPlaceの教育と共に準備が必要です。
競争戦略にコストリーダーシップ戦略を採用した場合は、商品の認知度を高める積極的な宣伝活動が今まで以上に必要です。大量生産・大量販売を実現するためには、その商品が広く知られて興味を持たれている状態を作りださなければなりません。 「良い商品をつくれば、売れる」と構えて待っているワケには行きません。マスコミにも多くとりあげてもらえるよう話題作り(アーリーアダプターに好まれる)を準備しなければなりません。
- 成長期(後期)
また、コストリーダーシップ戦略を採用している場合は、この段階で立ち止まって考えて、最後の最後まで(成熟期の後半まで)勝ち残る望みがあるのかを考察するチェックすることも必要です。 この段階から次のステージの成熟期までは消耗戦とも言える闘いに突入する可能性もあります。競争戦略を変更するか、ここで事業を撤退するかの検討をしておきましょう。競合企業に評価されているうちに事業を売却することで今までの総投資を超えるリターンを得ることもできる可能性もあります。
この検討のために、VRIOのフレームワークを用いて自らの強みに、抜けや漏れが無いよう客観的・分析的に確認します。ライバルの分析もVRIOで行います。この考察の結果、自分達の強みと判断できる要素はアピールポイントに加えてマーケティングの4Pのそれぞれの活動に反映させていきます。 また、強みはブランドを獲得していく重要な要素にもなります。
★Products
マジョリティから好評価を得るためには、アーリーアダプターから得られた評価(市場の声)を反映した商品に仕上げていくことがある程度必要です。これに加えて、アーリーマジョリティは安心感を求めますので、これに応える商品である必要もあります。 アーリーマジョリティは、アーリーアダプターよりも教育水準が高くなく分析することも得意ではないので、難しくないほうが良いのです。つまり、先進性よりも「こなれた商品」ということになります。 ただ、先進性を全く無くしてしまうと面白みが無い商品になってしまいますので、スパイス的に多少は時々の先進性を話題として取り込むことも必要です。
また、競争戦略で選択したポジションを考えて特長を商品に与えていくことが必要となります。コストリーダーシップ戦略を採用しているのであれば、価格で重要な勝負できるような商品に仕上げていく必要があります。 一方、差別化戦略を採用しているのであれば、アーリーアダプターからの評価が高い点をライバル商品よりも高めた商品に仕上げていくことになります。つまり、市場の声をフィードバックさせた商品作りが大事になります。
★Price
アーリーマジョリティはイノベーターやアーリーアダプターに比べて価格を重視します。特に競争戦略でコストリーダーシップ戦略を選択した場合は、マーケティングの4Pの中でも価格設定の重要度が高まります。
それでも、この段階では新商品の事業の収支は黒字に転じていなければなりません。そうでなければ早期に上手に撤退するしかありません。競争戦略でコストリーダーシップ戦略以外の選択をした場合でも収支が黒字となる価格設定で競合に勝っていけなければゲームエンドです。
★Place
アーリーマジョリティは面倒なことが嫌いです。購入希望者は苦も無く入手できるような販売網・サービス網が必要です。コストリーダーシップ戦略を採用した場合は、Productsよりもplaceに経営資源(ヒト、カネ)を投じるほうがよいかもしれません。 また、販売網、サービス網の構築には時間もかかりますからキャズム超えが確信できた時点からこの活動に取り組んでおかねばなりません。
★Promotion
アーリーマジョリティには実績のアピールが好影響を持ちます。「既に購入されたお客様の●●%が満足と回答・・・」という感じのプロモーションを見かけますがこれに相当するものです。 アーリーマジョリティは積極的なリスクを負ってまで新しいことに挑戦する気はありませんから実績あるものを追従して安心して採用したいと考えるのです。そこでアーリーアダプターに評価されていることを実績としてアピールしていくプロモーションを展開します。
- 【成熟期】
また、このステージでは、レイトマジョリティだけが顧客とは限りません。イノベーターやアーリーアダプターの買い替え需要も高まってきます。レイトマジョリティだけを意識した活動に陥らないように注意しましょう。
このステージでは、衰退期に残存者利益を得るために、ブランドエクイティの獲得・拡大に向けた活動も考慮することとなります。
★Products
レイトマジョリティは、成長期の頃のような「先進性の機能充実」よりも「簡単、安心」を求められます。商品やサービスのコンセプトを変えていかなけばなりません。
その一方で、アーリーアダプター、アーリーマジョリティの買い替え需要に応える商品も用意していくことになります。 いたずらにラインアップを増やすことは経営の負担につながりますので慎重に行う必要はありますが、今までとは視点を変えたラインアップの展開を行う必要があります。
★Price
レイトマジョリティの重要なニーズに応える値ごろ感が重要です。しかし、安い価格設定をしても事業の収益が伴っていなければ事業継続ができません。 成長期では必要だった取り組みの中から、辞める活動を見つけていくことでコストを抑えて収益性を高めていく活動も不可欠です。
業界の勝者になれば多大な利益を獲得できる段階です。
★Place
購入希望者が、苦も無く入手できるような販売網、サービス網が必要です。成長期で構築した販売網、サービス網の構築の維持が必要となります。
★Promotion
レイトマジョリティを対象とした広告を打つことになりますが、アーリーアダプター、アーリーマジョリティの買い替え需要を促す広告も同時に、衰退期で残存者利益を得ていくためにブランドを確立していく投資も必要となります。
- 衰退期
消滅する業界であれば、新商品を投入することは考えられないので、以下は細々とビジネスが継続できる業界として考察を進めます。
ブランドが確立できていて一定数のロイヤリティの高いファンが確保できていなければ、残存者利益を得るための活動ができます。また競合を撤退させるような企画を考えることも行います。
★Products
話題性を得るための商品開発を行うようなこととなります。例えば、○○周年記念モデル、記念カラー新商品などという感じです。あまり開発に投資すべきではありません。
★Price
残存者利益が得られるようであれば、価格設定の主導権を握ることも可能となります。いろいろな施策を試行してみることが考えられます。例えば、ライバルを撤退に追い込むための戦略的な価格設定を一定期間・一時的にすることも考えられます
★Place
利益が確保できるように、成熟期までに広げた販売網・サービス網は縮小してコストダウンをしていく必要があります。
★Promotion
ブランドの維持に投資が必要となります。例えば、高級腕時計メーカーはスポーツ大会などのスポンサードを行ってブランドの維持に努めたりしています。
最後に
このように状況の進展速度が早まっていく社会では、以前に成功した上司先輩のアドバイスは役に立たないかもしれません。だから、あなた自身の感性で時々の状況変化を察知して適確な判断をしていかなければなりません。
そんな時、新商品・新規事業を担うリーダーは、プロダクトライフサイクル論と複数のフレームワークを活用できれば、新商品の業界が成長していくステージに合せてダイナミックにアクションを打ち出していくことができるでしょう。
また、成功や失敗の事例を分析する際も、プロダクトライフサイクル論の視点も使って分析できれば、より有効な知見を得ることができるでしょう。