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イノベーター理論(普及理論)

イノベーター理論(普及理論)の重要度ランキング

重要度
リーダー必要度 ★★★★★ 必須教養 基礎的な教養と言えるでしょう
理解容易度 ★★★★★ 非常に容易 中学校の授業に入れても良いぐらい簡単。三平方の定理よりも社会に出て役立つ
活用容易度 ★★★★★ 容易 すぐに利用できます。


はじめに

 新商品・新規事業を担うリーダーにとってイノベーター理論(普及理論)は、理解&利用が必要不可欠なフレームワークです。理解は容易なのに、とても示唆を与えてくれるものです。 プロダクトライフサイクル論と合わせて理解を深めましょう。また、キャズム理論、マーケティングの4P、競争戦略とも組み合わせることで、新商品を成功に導くための実践的な活動を考察していく際に思考の手助けをしてくれる頼もしいフレームワークです。
 イノベーターという名称からテクノロジー商品を対象としたもののように誤解をしそうですが、新商品の全般に適用できるフレームワークです。例えば、新しい製法による新食感のパンを新商品として販売していく場合にでも適用できるようなフレームワークです。


概要

 イノベーター理論は、新しいカテゴリーの商品やサービスが世の中に普及していく際に、普及の段階に応じて採用者の特性が異なっているとする理論です。 社会学者のエヴェリット・ロジャースが1962年の書籍『Diffusion of Innovation』で提唱した古典的なセオリーです。普及理論とも呼ばれます。
 新しいモノが出ると飛びついて、すぐに試して見たがる人もいれば、そうした人を見て(クチコミを確認して)から判断して買う人もいます。あるいは、かなり普及して値段がこなれてからようやく買う人もいます。「新しいモノに飛びつくなんてアホだ。今でも十分じゃないか」なんて言う頑固者の人もいます。
 これらは皆さんも経験則でうすうすわかってはいるとことでしょう。これを体系的にまとめたものがイノベーター理論です。

普及曲線
商品の普及の段階に応じて顧客の特性が異なる
 イノベーター理論では図に示すように5パターンの属性に分けて説明されています。5つのパターンは、普及の初期段階から、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レレイトマジョリティ、ラガードと分けています。
そして、普及率に応じた顧客属性に合わせて、新商品の仕様や性能を決めたり、価格を決めたり、販売方法を決めたり、アピール方法を決めたりすれば成功の確率が上がるのです。

普及曲線
イノベーター理論(普及理論)の図2
 また、イノベーター理論(普及理論)の図は既に示したS字状の曲線の他に、下記のような正規分布を分断する形で説明されることもあります。
 普及率の数値は、経験則から導かれたもので、経済学から数学的な理論を駆使して導かれたようなものではありません。よって、状況に応じて数値が前後することはおおいに考えられまので目安と考えておきましょう。

 それぞれの特徴は以下のようなものです。普及理論は体感的にわかりやすいフレームワークですから「そう、あるある。」と納得し易いと思います。


  • イノベーター
     普及率が3%ぐらいまでの早い段階で商品を買う人はイノベーターと分類される行動特性を持つ人々です。 新商品・サービスを最初に購入するグループです。目新しいものが好きです。言わば、心が若い人々です。 新商品の発売日の前の晩から列に並んででも買うような積極的な行動を起こす人です。これから普及する新商品を買ってくれる先駆けとなる人々です。
     ただし、リスク許容度が高いため、のちに普及しない“アイデア商品倒れ”の商品を買ってくれることもあります。 このため新商品がイノベーターに熱烈に受け入れられたとしても次を見据えると決して安心してはいけません。

  • アーリーアダプター
     イノベーターに続き、普及率が20%ぐらいまでの段階で商品を買う人はアーリーアダプターと分類される行動特性を持つ人々です。 イノベーターよりも慎重に採用を見極めます。目新しさだけでなく実用性も考慮します。しかし、実用性オンリーではなく、アーリーアダプターはチャレンジしてみるのが好きです。 経済的にも余力があります。だから少々のチャレンジ購入ができます。
     一般に教育水準も高く、社交性も高いためオピニオンリーダーとなります。その発言は、イノベーターの発言よりも今後の購買者となる多くの人々に信頼されます。

  • アーリーマジョリティ
     アーリーアダプターに続き、普及率が50%ぐらいまでの段階で商品を買う人はアーリーマジョリティと分類される行動特性を持つ人々です。 数も多く、いわゆる大衆と言える人々です。
     アーリーマジョリティは、アーリーアダプターの人々の評判が良ければ、新商品やサービスの採用をします。アーリーマジョリティの心を掴むためにも、アーリーアダプターの評判を獲得することは大事になります。

  • レイトマジョリティ
     アーリーマジョリティに続き、普及率が80%ぐらいまでの商品を買う人はレイトマジョリティと分類される行動特性を持つ人々です。 普及のピークを越えて値頃感が出てから採用するグループです。アーリーマジョリティと共に大衆と言われる層ですが、大衆の中でも経済的な余力は乏しい傾向にあり、お得感がより大事になります。 社会的な影響力は乏しい傾向にあります。

  •    最後の段階で商品を買う人はラガートに分類される行動特性を持つ人々です。 変化を嫌うため、新商品の採用が最後となるグループです。経済的な余力はさらに乏しい傾向にあり概して高齢です。伝統を好み変化を嫌います。


演習:ケーススタディ(具体的な商品の事例で考察)

 以下に、乗用車を中心として例示説明をします。車に詳しい人から見れば正確さに欠ける点も多々ありますが、各ステージの人々の購買行動を理解いただくための比較としてご容赦をいただきたいと思います。

  • イノベーター(普及率 ~3%)
    日産リーフ
    挑戦的な先進性を持つリーフ
     現段階(2020年)の自動車では、EVやPHVのような乗用車はイノベーターの特性を持つ人々をターゲットとしている商品と言えるでしょう。 少し価格が高くても、実用性よりは新しいモノを試してみようとする人々が選択する商品です。
     ウェアラブルデバイス(スマートウォッチやスマートグラス(眼鏡))、ドローン、自動運転、VR(仮想現実)、5G通信サービスなどもイノベーターをターゲットにする商品と言えるでしょう。


  • アーリーアダプター(普及率 3~20%)
    プリウス
    先進的で実用性もあるプリウス
     国内の自動車ではプリウスのようなHV(ハイブリッド)の乗用車はアーリーアダプターの特性を持つ人々をターゲットにしている商品と言えるでしょう。 先進性だけではなく実用性のメリットもなければ、この層の人々への普及が進みません。ちょっと遊び心ある無駄なモノにもお金を払える購買層が購入する商品です。
     4Kテレビ、電子書籍、スマートフォン決済サービス(日本において)、暗号資産(仮想通貨)・・・などもアーリーアダプターをターゲットとする商品と言えるでしょう。


  • アーリーマジョリティ(普及率 20%~50%)
    ミニバン
    実用性が高いミニバン
     国内の自動車ではミニバンはアーリーマジョリティの特性を持つ人々をターゲットにしている商品と言えるでしょう。実用性が高い一方で、値段は高くはありません。 かつては大衆車といえば、カローラやサニーのようなセダンタイプの車でしたが、今では、ミニバンタイプこそ大衆車と言えるでしょう。
     スマホゲーム、Netショップ、SNS、・・・・・・などの大衆をターゲットとする新しい新商品・サービスはアーリーマジョリティをターゲットとする商品と言えるでしょう。
     テレビショッピングの「ジャパネット タカタ」はアーリーマジョリティをターゲットにしてビジネスをしていると言えるでしょう。 このショップで販売する商品は、まず、実用性の説明を行い、次ぎに、アーリーアダプターからの好評判を紹介し、最後に、お得な価格を提示するという定型パターンとなっております。アーリーマジョリティの行動特性に響く合理的な訴求パターンに仕上げられています。


  • レイトマジョリティ(普及率 50~85%)
    セダン
    リーズナブルな軽自動車
     国内の自動車では軽自動車はレイトマジョリティの特性を持つ人々をターゲットにしている商品と言えるでしょう。この段階で顧客に支持されるには、お得感が十分に感じられるような商品に仕上がっていなければなりません。 でも安っぽいだけでは嫌われるので最近の軽自動車は見栄えもなかなか優れたものになっています。
     パソコン、スマートフォン、コンビニエンスストア、ファストフード、クレジットカードなどの大衆をターゲットとする既に周知されている新商品・サービスはレイトマジョリティーをターゲットとする新商品と言えるでしょう。
     安売りチェーン店の「驚安の殿堂 ドンキホーテ」の来客層もレイトマジョリティを主ターゲットとしていると言えるでしょう。


  • ラガード(普及率 85%~)
    セダン
    保守的なセダン
     国内の自動車ではセダンはラガードの特性を持つ人々をターゲットにしている商品と言えるでしょう。古くからある伝統的な形です。かつては大衆向けに多くの需要がありましたが、現在の需要は多くはありません。
     わざわざラガードを対象とした新商品は多くはありませんが、例えば、シルバー世代向けのスマホなどもあります。大型電気店では、店の片隅にラジカセが売られております。 また、新商品を作らず、古くから続く定番商品を続けることでラガードを顧客として掴み続けることに成功して持続している商品もあります。

よくある失敗・注意点


  • キャズム
    普及が止まってしまう
     アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの普及の進展時に躓く事例が多々あることが最近わかってきました。アメリカのコンサルタントのジェフリー・ムーアが”キャズム”としてこの現象を提唱しました。 ハイテク業界で良く見られるとされています。例えば、Amazonの電子書籍端末Kidleは、日本ではある程度の普及で留まってしまっています。

     キャズムで引っかからないようには、アーリー・アダプターを一気に攻略して多数の事例を作り、アーリーマジョリティに安心してもらうことが重要とされております。 もちろんアーリー・アダプターからアーリーマジョリテを対象とした商品に仕上げ直すことも欠かせません。 それゆえ、アーリーアダプターを狙う段階になっている新商品・新規事業を担当している方は、キャズムのフレームワークについても別途確認して理解を深めてください。

  •  
  • 日本企業の実情
     企業内では、商品企画の資料でも、商品開発の資料でも、価格設定の資料でも、販売計画の資料でも、普及理論を活用した考察をあまり見かけないのが実情です。
     例えば、「30代前半の未婚の男性」という程度のターゲット設定ぐらいならば、企画資料で見かけることがあります。しかし「30代前半の未婚の男性」の中でもアーリーアダプタ向けとレイトマジョリティ向けでは、新商品の仕様も価格も売り方もかなり違ってくるでしょう。 組織一丸となってターゲットの属性に適した活動をしていかねばならないのに(特に新商品であれば)、関係者の認知がバラバラの判断でバラバラの活動をしていては良い結果が生まれないでしょう。


新商品を成功させるためには

 あなたの新商品・新規事業を成功させるためには、あなたの新商品が普及理論の5つのステージのどこにあるのかを理解し、そのステージに適した行動をすることが成功には不可欠です。 逆に言えば、いくら先輩や上司の成功した事例があると紹介されても、他のステージのアクションの事例を真似して行うと、せっかくのチャンスを潰してしまうことにもなりかねません。
 イノベーター理論は、あなたの新商品の販売を成功に導くために有力な示唆を与えてくれますが、具体的なアクションを決めていくためにはマーケティング4Pの理解も必要です。 また、成長期になれば、競争戦略を決めてこれに従うアクションを行なわなければなりませんので、競争戦略の理解も必要です。これらのフレームワークも把握しつつ以下を読み進めてください。
 それでは、各ステージで、どのように商品(Products)を作って、値段(Price)付けて、販路(Place)を準備して、アピール(Promotion)すれば、人々に買ってもらえるのでしょうか。マーケティング4Pの理論に従い、Products、Price、Place、Promotionで確認していきましょう。成長期は前半と後半に分けて5つのステージで考えます。

  • 【普及率が3%程度】 =イノベーター向けの商品である場合
    テスラ
    イノベーターをターゲットとしたアクション
     話題性はあるもののそれほど世の中に普及していない段階にある新商品を投入する場合は、イノベーターの人々の琴線に響くように商品(Products)を作って、値段(Price)付けて、販路(Place)を準備して、アピール(Promotion)して、イノベーターの人々に買ってもらわねばなりません。
     イノベーターは好奇心旺盛です。先進的なモノを好みます。先進的であるが故に難しいことあっても、これを覚えて使いこなすことを苦にしません。また、イノベーターは価格をあまり気にしません。
     では、Products、Price、Place、Promotionで具体的なアクションを確認していきましょう。

    ★Products
     目新しさを好む人を満足させるように、商品自体には、話題となる性能・機能が盛り込まれていなければなりません。また、デザインも先進的なものとします。デザインは商品自体もハコもカタログも・・・・と一貫させることが望ましいでしょう。
     しかし、あまりにも奇をてらった商品に仕上げると、イノベーターには評価されても次にステップに控えているアーリーアダプターに普及が伝播していきません。次の展開も見据えてアーリーアダプターに好まれる商品作りに繋がっていくことも考慮しておかなければなりません。

    ★Price
     イノベーターの人々はあまり価格に対する要求はあまり厳しくありません。逆に、少し高い方が先進性のステータスや所有欲を満たすので良いこともあるぐらいです。とは言え、まだ普及率が低い商品は概してコスト低減以前の段階ですから、原価も売り値も高くなってしまいがちです。
     そうした価格でも許容される場合もありますが、あまり価格設定をルーズに考えるとそもそも売れません。収支が赤字になっても敢えて買っていただける価格を設定する必要もあります。その次の段階で取り戻すと考えるしかありません。  大企業であれば、イメージアップの広告塔的な商品としての実現も可能ですが、ベンチャー企業では、売り込み先をよほど絞らないと収支は苦しいでしょう。 アメリカ西海岸であれば赤字でもユニコーン企業として高く経営と商品を評価してもらえますが日本では厳しいのが実情です。しかしながら、これからの日本でも事業発展の出資先を得ていくことで、商品単品の収支ではなく事業としての価値を高めるということが広がっていく可能性もあります。

    ★Place
     好奇心旺盛なイノベーターの人々は、商品を買いにやって来てくれます。販売網を広げることよりも、そうしたスペシャルな場に来てもらえるように誘導することが大事です。 例えば、特定のショップや、Webサイトに特設サイトを用意することです。どこでも買えるよりは限定販売にすることも効果的でしょう。この段階では、どこでも買っていただけるよう販路の整備に投資するよりは経営資源を他のコト(例えばPromotion)に回したほうが良いでしょう。

    ★Promotion
     イノベーターの方々の琴線に響くよう先進性や貴重性などのプレミア感をアピールすることが大事です。例えば、世界初の最先端技術を採用しているのならば、これをアピールします。まだ競合製品との比較はそれほど熾烈ではありませんので、ナンバーワンよりもオンリーワンに意味があります。利用できるブランド力があればこれを活かすことも必要です。
     この段階では、イノベーティブな商品としてマスコミで記事に取り上げてもらえる機会も多いので、マスコミ向けに積極的に説明をしていく活動も必要です。マスコミが記事として書くことを想定して、記事掲示してもらいたい見出しと副題を考えてみましょう。逆に言えば、自分たちで10文字前後の見出しと20文字程度の副題を新商品に付けてあげることができなければ、どうして記者が取り上げてくれるでしょうか? この準備は必須です。
     広いマス広告よりもイノベーターの人々が行動し、閲覧する場所に露出させる狙った広告を行う必要があります。SEM広告は有効な方法です。B2C商品であればSNSは有効な方法の一つです。B2B商品の場合は、業界専門誌への掲載や業界の展示会に出展することも方法です。

  • 【普及率が16%まで】 =アーリーアダプター向けの商品である場合
    アーリーアダプタをターゲットとしたアクション
     いよいよ世の中に普及していく段階にある新商品を投入する場合は、アーリーアダプターの人々の琴線に響くように商品(Products)を作って、値段(Price)付けて、販路(Place)を準備して、アピール(Promotion)して、アーリーアダプターの人々に買ってもらわねばなりません。
     アーリーアダプターはイノベーターにも似て先進的なモノが好きですが、イノベーターよりも冷静に分析をします。商品の性能・機能が、自分にとって費用を支払う価値のある役立つモノであることが購買の判断に必要です。教育水準も高く経済的な余裕もあります。しかし、現実志向でもあるので無駄な機能や性能には価格で評価をしません。
     こうしたアーリーアダプターの琴線に響くように、Products、Price、Place、Promotionを確認していきましょう。

    ★Products
     アーリーアダプターも新しいモノが好きですがイノベーターよりも冷静に分析をします。商品の性能・機能が、自分にとって費用を支払う価値のある役立つモノであることが必要です。先進的でありながら実用性も説明できる商品に仕上がっていなければなりません。
     競合企業も本格的に参入してきますので、競合製品との比較も始まります。競争戦略のフレームワークで考察して、自社商品の立ち位置を考えて特長を商品に与えていくことも必要となります。

    ★Price
     アーリーアダプターは経済的な余裕があるため、まだ必要以上に低価格であることを求めません。しかしコストパフォーマンスに納得性のある価格設定でなければなりません。アーリーアダプターは教育水準も高いため計算高いのです。話題性だけの無意味なものを買わされることは避けようとします。アーリーアダプターはオピニオンリーダーとして市場全体をリードすることになります。割高だと思われてSNSなどでマイナス評価を発信されてしまうようなことが無いようにしなければなりません。
     競争戦略のフレームワークで考察して、自社商品の立ち位置を考えて商品の価格を考えていくことも必要となります。選択する競争戦略の種類によっては、売り上げが増えても新商品の事業の収支はまだ赤字になっていることもあります。

    ★Place
     イノベーターの人々への販売時よりも販売網、サービス網を広げておくことが必要です。しかしながら、どこでも手に入るという程の広い展開は不要です。それよりも販売に携わる人がきちんと商品を説明ができるように教育ができていなければなりません。量より質が大事な段階です。
     競争戦略のフレームワークで考察して、自社商品の立ち位置を考えて商品をお届けするルートの整備を考えていくことも必要となります。採用する戦略次第で、アクションは異なります。
     逆に言えば、商品にふさわしい適確な販路を確保するか、育成できていないと期待した販売ができません。なまじ実績のある企業は、既存の販路に新商品を考えも無く流そうしますが、ここで失敗を招く恐れもあります。

    ★Promotion
     イノベーター向けの準備よりも質を上げていく必要があります。先進性のアピール(競争優位)に加え、その先進性により得られるお役立ち(顧客価値)のアピールも必要です。コストパフォーマンスがある商品であることを理解してもらえるよう、顧客視点でWebページの充実やプロモーションビデオの作成などの準備も必要です。
     競争戦略のフレームワークで考察して、自社商品の立ち位置を考えてプロモーション施策を考えていくことも必要となります。

  • 【普及率が50%まで】 =アーリーマジョリティ向けの商品である場合
    アーリーマジョリティをターゲットとしたアクション
     いよいよ大衆にまで商品が普及していく初期段階にある新商品を投入する場合は、アーリーマジョリティの人々の琴線に響くように商品(Products)を作って、値段(Price)付けて、販路(Place)を準備して、アピール(Promotion)して、アーリーマジョリティの人々に買ってもらわねばなりません。
     アーリーマジョリティはアーリーアダプターの声の影響を受けます。アーリーマジョリティは安心感を求めますので、これに答える商品である必要があります。 アーリーマジョリティは、アーリーアダプターよりも教育水準が高くなく分析することも得意ではないので、難しくないほうが良いのです。また、アーリーマジョリティはアーリーアダプターよりも価格を重視します。値下げしていくことが必要です。
     こうしたアーリーマジョリティの琴線に響くように、マーケティング4Pの理論に従い、Products、Price、Place、Promotionで確認していきましょう。しかしながら、アーリーアダプターでは受け入れられたのにアーリーマジョリティに引き続き順調に普及が進展しないケースがある(特にハイテク系)というキャズム理論があります。注意が必要です。
      ※キャズム理論については、別途詳しく掌握してください。

    ★Products
     アーリーアダプターからの評価を反映した商品に仕上げていくことが欠かせません。商品の普及が本格的に始まるため競合との比較は熾烈になります。競争戦略で選択したポジションを考えて特長を商品に与えていくことが必要となります。
     アーリーマジョリティは安心感を求めますので、これに答える商品である必要があります。アーリーアダプターよりも教育水準が高くなく分析することも得意ではないので、難しくないほうが良いのです。つまり、先進性よりも「こなれた商品」ということになります。ただ、先進性を全く無くしてしまうと面白みが無い商品になってしまいますので、スパイス的に多少は時々の先進性を話題として取り込むことも必要です。
     コストダウン努力により収益性を高めなければなりません。これは経験曲線のフレームワークで説明される効果を早めに得ておく必要があります(特に競争戦略でコストリーダーシップ戦略を選択した場合は)。必要以上の性能を商品に与えることは無駄なコストとなります。同様に必要以上の品質は無駄なコストとなります。
     それ以前の段階とは違うフェーズに入ったことを意識的に理解しなければなりません。そうしないとキャズムを越えることができずに、前のステージで行き止まってしまう可能性があります。同じようなスタンスで製品作りをしていると「優れているけど売れない商品」を作り出すことになります。部品一つの選択ですらアーリーアダプター向けの商品とはレベルを変えていく必要があります。しかしながら、見た目は重要ですのでデザインは惜しまないようにしましょう。

    ★Price
     価格の重要度は高まります。特に競争戦略でコストリーダーシップ戦略を選択した場合は、マーケティング4Pの中で価格設定が最も重要になります。それにも関わらず、この段階で新商品の事業の収支が黒字になっていなければなりません。値頃感のある価格にしてもビジネスが継続できる収支構造になっていなければなりません。もしそれができていないのであれ早期に上手に撤退するしかありません。たとえ競争戦略でコストリーダーシップ戦略以外の選択をした場合でも収支が黒字となる価格設定で競合に勝って行けなければゲームエンドです。

    ★Place
     購入希望者が、苦も無く入手できるような販売網、サービス網が必要です。多くの店頭に並ぶように販路の整備を進めることや、有名なネットショップで気軽に買えるような準備が必要です。しかし、販路のマージンの圧縮にも取り組む必要があります。Productsの担当者が製品のコストダウン努力により収益性を高めるように、Placeの担当者は流通のコストダウン努力に取り組まなければなりません。それ以前の段階とは違うフェーズに入ったことを意識的に理解しなければなりません。収支が改善されていなければやがて事業を継続できずゲームエンドになってしまうからです。

    ★Promotion
     アーリーマジョリティには実績のアピールが好影響を持ちます。「既に購入されたお客様の●●%が満足と回答・・・」という感じのプロモーションを見かけますよね。アーリーアダプターに支持されていれば、アーリーマジョリティにも引き続き支持される可能性が高いので、アーリーアダプターに評価されていることを実績としてアピールしていくことで説得力のあるプロモーションを展開できます。その上で実績の裏付けとして、先進性やお役立ち(コストパフォーマンス)もアピールしていくことになります。実績のアピールは、安心感をアピールすることにも繋がります。アーリーマジョリティは積極的なリスクを負ってまで新しいことに挑戦する気はありませんから実績あるものを追従して安心して採用したいと考えるのです。Products、Placeの担当者はコストダウン努力に取り組みますが、Promotionはコストの投入をためらってはいけません。ブランドを確立して末永く稼げる事業にするために、大衆が一番最初に想起する商品に育てるのです。

  • 【普及率が84%まで】 =レイトマジョリティ向けの商品である場合
    セダン
    レイトアダプターをターゲットとしたアクション
     もはや話題性も無い大衆への普及が終了する段階にある新商品を投入する場合は、レイトマジョリティの人々の琴線に響くように商品(Products)を作って、値段(Price)付けて、販路(Place)を準備して、アピール(Promotion)して、レイトマジョリティの人々に買ってもらわねばなりません。
     レイトマジョリティはアーリーマジョリティよりも一層、安心感を必要とします。要するに面倒なことは避けたいのです。難しいことを覚えてまで新商品を使いこなすことは望んではいません。レイトマジョリティはアーリーマジョリティよりも経済的な余裕があまり無いので、さらに一層、価格を重視します。
     では、Products、Price、Place、Promotionで具体的なアクションを確認していきましょう。

    ★Products
     コストリーダーシップ戦略の場合、お手軽・便利な商品とする必要があります。もう先進性の「機能、性能」の充実よりも「簡単、安心」に求める商品に仕上げて行く必要があります。商品やサービスのコンセプトを変えていかなけばなりません。
    ★Price
     コストリーダーシップ戦略の場合、さらに値下げする必要があります。この競争に負ければ淘汰されます。レイトマジョリティは経済的な余裕があまり無いので分割払いなどの費用負担感の軽減策などの提供も検討します。
    ★Place
     コストリーダーシップ戦略の場合、商品の存在が顧客のすぐ目に留まるように、顧客の近くまで届く体制を確立することが必要になります。レイトマジョリティは面倒なことは避けたいのです。わざわざ苦労してまで買いには来てくれません。販売体制の成否が商品販売の成否にも繋がります。
    ★Promotion
     コストリーダーシップ戦略の場合、定期的なマス広告を行うことや、季節などに同期したイベントを行うことなどが考えられます。(オリンピックなどの有名スポーツイベントのスポンサーは、大衆(レイトマジョリティ)を対象とするような商品を持つ企業であることが多い)。また、ブランドを確立できているか否かで、価格設定も、利益も、その後の事業継続の可能性も大きく変ります。

  • 【普及率100%まで】 =ラガード向けの商品である場合
    ラガードをターゲットとしたアクション
     ラガードをターゲットにして新商品が投入されることはあまり見かけません。ラガードを相手にしたビジネスが成り立ちにくいのが実情だからでしょう。ですからあまりお勧めできません。
     ただし皆無ではなく、ラガードを意識して新商品が作られることも多くはありませんが存在します。例えば、高齢者向けの携帯電話の「らくらくホン」のような商品です。
     では、Products、Price、Place、Promotionで具体的なアクションを確認していきましょう。

    ★Products
     利用者目線でとにかく簡単に利用できるように作ること。新商品らしい演出も不要です。
    ★Price
     価格を高くは設定できません。分割払いなどのサービスも用意しておくことも有効です。
    ★Place
     需要の拡大は期待できないので販路を絞っておかないと販売体制を継続できないでしょう。商品説明とフォローアップできる体制準備も用意しておくことが望まれます。
    ★Promotion
     ラガードの活動範囲にて新商品のアピールが露出されるような限定的なプロモーションを行っていくことになります。
     あるいは、ラガードの血縁者や知人などに新商品の存在をアピールして、間接的に新商品のお役立ちを伝えてもらうようにすることも方法です。(携帯電話の家族割引サービスの広告例)


最後に

 イノベーター論のフレームワークは、主に個人向け販売において想定される分類ですが、法人向けでもこの考え方はバッチリ使えます。
比較的新しいものにチャレンジしたがる若々しい風土の会社から、実績が確定していない商品には手を出さないオクテの会社(政府や自治体のお役人はだいたいココ)まで、 様々なタイプの法人があることは、法人を相手にしたビジネスをされている方々ならば日々体感されているでしょう。