競争戦略
競争戦略の重要度ランキング
重要度 | A | ||
リーダー必要度 | ★★★★★ | 必須教養 | ビジネスパーソンの基礎教養と言えるでしょう |
理解容易度 | ★★★★★ | 非常に容易 | 高校の授業に入れても良いぐらい簡単。微分方程式の習得よりも社会に出て役立つ。 |
活用容易度 | ★★★★★ | 容易 | この戦略の人気が高いのには理由があります。活用法がわかりやすいからです。 |
はじめに
新商品・新規事業を担うリーダーならば、競争戦略は、かなり有名なので基礎教養としても把握をしておきたいフレームワークです。それゆえ、中途半端に理解していると大怪我の元ですから、あらためて確認していきましょう。
競争戦略は理解しやすく、使い方も容易です。民間企業のみならず、公共セクションでも、教育機関でも、ボランティアにかかわる人でも、宗教にかかわる人でさえも、このフレームワークは有効に使えるでしょう。
ただし、一般論としてはOKでも、新商品・新規事業を担うリーダーの方ならば気をつけなければならない注意点(課題)も多々あると私は考えます。これは非常に重要なハズなのですが、これを解説しているビジネス書籍やWeb記事を見たことがあまりありません。
あたかもフレームワークの王道として万能であるかのような誤解の罠にはまらないように注意してください。
概要
図をご覧ください。よほどの理由がない限り、あなたが行うビジネスは、コストリーダーシップ戦略か、差別化戦略か、集中戦略かの3つのパターンのいずれかの戦略を取ることになります。
たった3つの種類に分類できるなんて、「簡単だけど、本当かいな?」と思われるでしょう。このフレームワークはハーバード大の有名教授のマイケル・E・ポーター教授が、経済学の理論を経営学に適用して考え出した経営学のフレームワークです。
発表されてから、かれこれ30年も経ちまして、その間に様々な検証がされてきましたが、実際に多くの事業の栄枯盛衰を検証した結果からも、このフレームワークは補強されて有効性のある経営戦略策定ツールとなって現在に至っています。
- コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、大量生産で安く商品を供給して、競争相手を凌駕するという戦略です。 一度、トップシェアを押さえることができれば、「ライバルに追いつかれないように徹底的に大量生産と大量供給を推し進めよ!」という戦略です。 そうすれば競争相手はトップ企業の大量生産による低価格には勝てません。状況が変わらない限り、トップ企業は勝ち続けることができます。 言わば”勝ち組”の戦略です。
コストリーダーシップは、まるでアメリカ軍の物量作戦のような戦い方をしている風景を想像していただければわかりやすいでしょう。 ですからこの戦略は資金力や経営体力のある強者企業でなければ実現は難しいものでもあります。
おそらく、これから新商品・新規事業で"打って出よう”というこのページの読者は、コストリーダーシップ戦略を適用できるような豊富な経営資源を持っている人は少数派でしょう。 だから、豊富な経営資源を持っている人でなければ知る必要も無い戦略かと言えば、それでもビジネスパーソンならば全員が十分に把握しておく価値がある戦略です。 なぜならば、
理由1)ライバルがこの戦略を取っている可能性がありますので、どう対抗していくかを考察するためにも把握しておく必要があります。 ライバルの隙をつくためには、相手のことを知ることが不可欠です。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」もまたビジネスの基本です。
理由2)ベンチャー企業であっても、多数のファンドを集めることに成功し強者の戦略をとれるのであれば、この戦略を考えることができます。資金集めをするためには掌握しておくべき戦略です。
理由3)次項の事例で説明するように今ではコストリーダーシップ戦略が良く機能して事業が成功している「ヒートテック」や「プリウス」も、最初はコストリーダーシップ戦略の商品ではありませんでした。 デビューした最初の段階は高性能商品として『他とはちょっと違う商品だぞ』という商品からスタートしました。この後に述べる差別化戦略の商品でした。 大事なことは、そのままデビュー時の差別化戦略の商品に留まらず(固定化せず)、「コストリーダーシップ戦略」に”うまいタイミングで”(ダイナミックに)移行したのです。 大量に売る商品のほうが企業として儲けが大きいのだから当然のことです。 だから、新商品を差別化戦略でデビューさせて成功させたとしたら、さらに、「コストリーダーシップ戦略」に転換して大成功に発展させるためにも(最初はあまり必要ではないとしても)掌握しておく必要があります。 だって、新商品を作ったならば、”普通の成功”よりも”大成功”が良いでしょう?。 - 差別化戦略
差別化戦略とは、商品やサービスに他社には無い魅力を付けて「少し高いけど、こっちがいいね」と選ばれることで事業を成功に導く戦略です。 性能が高い、機能が豊富、デザインが良い、有名ブランドだ、サービスが良い・・・。その魅力は簡単に競争相手に真似できないようなモノでなければなりません。
差別化戦略では、コストリーダーシップ戦略のように価格の競争の土俵で競争相手との勝負はしないものの、価格を無視できるものでもありません。 価格に見合う魅力が用意できなければ差別化戦略は成立しません。だから顧客価値のフレームワークの理解が不可欠です。
差別化戦略は、俗にニッチ戦略と言われていたりもします。でもこの後に説明する集中戦略もニッチ戦略と言われたりもします。 両者は全く違いますので、上司先輩同僚が良く意味も知らずにそのような言葉を発していたら、どちらなのか見極めて話を合わせつつもブレないように考える姿勢が必要です。
- 集中戦略
集中戦略とは名前の通り、あるカテゴリーを絞ってそこに経営資源を集中投下して事業の成果を上げる方法です。 価格で勝てるほどの低コスト体制を持たず、差別化できる程の話題性がある商品でもない。そんな場合でも勝機はあります。 例えば、特定の地域、特定の業界、特定のジャンル、特定の顧客・・・・など、局地戦で勝つという方法です。 なんらかの知恵で経営資源を集中させることはできるでしょう。織田信長の桶狭間の戦いも、局地戦に持ち込んでの勝利です。
集中戦略はさらに2つに細分化して、低コスト集中戦略と、差別化集中戦略とする考えもあります。 名前から想像がつくように既に説明したコストリーダーシップ戦略と差別化戦略の要素を集中戦略の中に入れます。
集中戦略も俗にニッチ戦略と言われていたりもします。でも差別化戦略もニッチ戦略と言われたりもしますので、 両者は全く違いますので、上司先輩同僚が良く意味も知らずにそのような言葉を発していたら、どちらなのか見極めて話を合わせつつもブレないように考える姿勢が必要です。
さらに深くこのフレームワークを掌握するために、以下の情報も参考にしてください。
- 書籍
「競争戦略論I」マイケル E. ポーター (著), 竹内弘高 (翻訳)
「競争戦略論II」マイケル E. ポーター (著), 竹内弘高 (翻訳)
- Web記事
週刊ダイヤモンドが提供するオンライン記事→ 3分でわかるポーターの『競争戦略』
- 映像
ビジネススクール「グロービス」が提供する動画学習サービス(お試し)→ ポーターの3つの基本戦略
演習:ケーススタディ(具体的な商品の事例で考察)
- コストリーダーシップ戦略
(ユニクロを凌駕する大量生産や大量販売や大量広告を実現するお金があれば、ユニクロを企業ごと買ってしまえばよいのです。だからユニクロを上回るコストリーダーシップ戦略に経営資源を投下するという企業戦略は考えられません。)
飲食業界では、マクドナルドがコストリーダーシップ戦略に該当するでしょう。ハンバーガーが100円、コーヒーも100円です。 低価格で大量販売により事業を成立させています。立地も駅前一等地や交通量の多い幹線道路沿いのコストのかかる場所に出店しますが、それに見合う集客を実現しています。
乗用車の世界でコストリーダーシップ戦略を取る商品は、トヨタ自動車のプリウスです。少し前までは、他社でもプリウスを上回るハイブリッド自動車を作る挑戦をしていました。 しかし、開発力、生産力(購買力)、販売力でトヨタを上回るハイブリッド自動車を他の自動車メーカーは作ることができませんでした。ホンダを除く競合の自動車メーカーが作るハイブリッド自動車は、超高級車か、限定車のような存在しかありません。値頃感ある価格で作ることができないのです。 トヨタは、プリウスはもちろんのこと、それよりも安いアクアなどの車種や、RVの車種にも、高級車のレクサスにもハイブリッドシステムを展開。プリウスファミリーは、圧倒的な販売力を誇っています。 トヨタはあまりにも強すぎるので、最近になってハイブリッド自動車の特許を無償公開(2019年4月)して他企業がハイブリット車を作るように参入を促そうとしております。 それぐらい強いのです。業界全体の発展が進まない一人勝ちの状態は、結局、トヨタにとっても収益向上にはつながらないので行った戦略といえるでしょう。
- 差別化戦略
また、カシオの腕時計のGショックも、タフブックと類似の差別化戦略に立脚している商品といえるでしょう。
飲食業界では、モスバーガーが差別化戦略に該当するでしょう。マクドナルドのハンバーガーよりも少し高いけど少し美味しい。コストのかかる駅前一等地を避けて出店し、多少不便な場所でもお客様に積極的に来てもらうことを狙っています。
乗用車の世界で差別化戦略を取る商品は、ポルシェやフェラーリなどが挙げられます。それぞれ個性ある高級スポーツカーで独特の地位を確立しています。また、メルセデスベンツやBMWも高級車という地位を確立しています。ロールスロイスはもっと上を行く超高級車だけに絞って事業を続けています。
現在はコストリーダーシップ戦略を採用する商品とも言えるプリウスは、最初は差別化商品としてスタートを切りました。従来に無いエンジンとモーターを組み合わせた動力を持つことで燃費を飛躍的に向上させた特殊な乗用車としてのデビューでした。 また、ユニクロのヒートテックも、東レが開発した吸湿すると発熱する素材を使うことで暖かさに優れた高機能な衣類として最初はデビューをしました。しかし、先に説明しました通り、今ではプリウスもヒートテックもコストリーダーシップ戦略の商品に変化しています。
競争戦略のフレームワークの提唱者であるポーター氏は、『決めた戦略をブレずに徹底すること』を提唱していましたが、これらの例のように、『競争戦略をまたいで移動することも必要である』とダイナミック戦略論の河合氏から提唱されております。 私はこの新しいフレームワークを支持すると共に、新商品・新規事業を担うリーダーの方には、まだ世間ではその重要さが知られていないこの大事なことを、もっと知ってもらいたいと思っております。
- 集中戦略
実はスズキ自働車はもう1つのパターンの集中戦略でも成功しています。それはインド市場への徹底です。インドの現地企業との合弁会社でインドの車のシェアで常にトップに位置してきました。
このように、”特定地域に絞り込む”ことの集中戦略でも成功パターンを確立しています。
似たような例として「地域一番店!」を掲げて頑張っている地場密着型のお店を見かけることあります。 地場の商品を仕入れ販売すること、地場の暦(イベント)に合う商品を並べること、郷土愛にも訴えること・・・あの手この手で、全国チェーン網の巨大企業によるコストリーダーシップ戦略に簡単には侵さられない生存領域をうまく作って生き残るお店が多々存在します。
よくある失敗・注意点
競争戦略論は、MBAで学ぶ人にとっては”掛け算九九”のような基本的なフレームワークです。日本の経営者にも信奉者が多くおります。
たしかに重要ではありますが、数あるフレームワークの1つにすぎない競争戦略だけにこだわりすぎている人は危険です。我々はこうした轍には陥らないようにしましょう。競争戦略論は、新商品・新規事業を成功に導くフレームワークとしては適用に条件があり、限界もあります。あまり指摘されていませんが、間違って適用すると大失敗してしまう点も多々あるのです。
経営学を網羅的に把握し様々なフレームワークを習得していれば、そのような間違いは犯さないハズなのですが、網羅的に把握していないと視野狭窄のミスをおかしてしまいます。競争戦略を柔道に例えれば、背負い投げのようなものです。
柔道を体得しようとする人ならば必ず習得すべき基本技ですが、この技一本たけで戦っては試合に勝てません。
- コストリーダーシップ戦略での失敗
一方、同じ時期のサムスン電子も巨費を投じて巨大な液晶ディスプレイの工場を作りましたが、そこで生産される液晶パネルは、サムスンのTVのみならず、ソニーなどTVメーカーとしてはライバルになる企業にも供給されました。 こうすることで在庫の山に埋もれずに済むようにしたのです。また、無理に第10世代液晶パネルの生産技術を投入せず、ある程度枯れた第8世代の液晶パネルを”安く”生産することをしました。 そればかりではなく、サムスンはシャープよりも遥かに多くの宣伝を積極的に行いました。これにより、世界におけるサムスンのブランド価値は、シャープはもちろん、パナソニックやソニーを上回るようになりました。 有名ブランドになればどんどん売れるようになります。低コストで生産出来ているので十分に利益も得ることもできます。こうして、サムスン電子は、コストリーダーシップ戦略に、マーケティングの4Pの全ての要素を徹底して成功しました。 Products=大量生産、price=量産効果、Place=大量販売(競合企業にさえも売る)、Promotion=大量宣伝 ということになります。
「ものづくり ニッポン」の自負に溺れていたためか、シャープは、Productsのみに目が行っており、それ以外の取り組みがあまりにも疎かでした。 その結果は企業存続すら誤る非情な結果となってしまいました。「差別化した良い商品を作れば大量に売れる」という考え方は、20世紀後半の頃の日本企業の成功体験に過ぎず、状況が変化しても行動を変えることができなかった企業幹部リーダー、および、ミドル(各事業の現場リーダー)は自業自得の結果に行き着いてしまったと言えるでしょう。 もし、シャープのリーダー、および、ミドルが基本的な経営学のフレームワークを掌握していれば、『賢者は経験ではなく歴史に学ぶ』を実行できて、違う結果になっていたと思われます。
一方のサムスン電子は、経営トップの李健熙(イ・ゴンヒ)はMBAホルダー(早稲田大学商学部→ジョージ・ワシントン大学経営大学院MBA課程修了)であることはもちろん、彼を支える恐怖の参謀集団(現・未来戦略室)もMBA出身者を多く擁するインテリジェンスな戦略立案でトップを支えました。 戦略的な行動を行ったサムスン電子が、その後、薄型TVの日韓の電器メーカーとの競争に勝利したことはご存じの通りです。サムスン電子を日本のモノマネだと卑下しているだけでは本質を見誤ります。
- 差別化戦略での失敗
良く見かける間違った差別化戦略は、性能のアップなどで差別化を図ろうとする考え方です。当たり前ですが、顧客に「おお、他社と異なってすごいぞ!」と認知されなければ差別化になりません。 性能比較表の上で競合よりも差別化した商品やサービスを作ったと自負していても、顧客の視点から見て価値に差がなければ差別化戦略とは言えません。顧客価値のフレームワークを習得し、ビジネスの実務で使える状態になっていないと犯しやすい失敗例が多々あります。
シャープばかりではなく、パナソニック、パイオニア、ソニーもまた同時期にコストリーダーシップ戦略と差別化戦略の整合性の取れない活動を行い、かつ差別化戦略になっていない”自称”差別化商品を作るような無駄な活動に経営資源と時間を費やしてしまいました。 この結果、20世紀初頭は日本の電器メーカーが薄型TVの事業において世界トップを占めていたのにも関わらず、その十数年後には日本企業はことごとく敗退していくことになりました。この点について、顧客価値の章でも説明していますので、そちらもご覧ください。
- 集中戦略での失敗
集中戦略を採用し、経営資源を集中投下させていた市場が無くなってしまうと、その企業は事業の存続に大打撃を受けることになります。
他にも「ガラパゴス・・・」と言われる日本市場だけを頼りに経営資源を投じてきた会社が、グローバル化の進展に伴い、立ちゆかなくなっている例がいろいろあります。
もし、軽自動車という法律上のワクを取り払われるような法令改正が行われると、先ほど集中戦略の成功者として事例に取り上げたスズキ自動車は大打撃を受けることになるでしょう。 集中戦略を取る企業にとって、法令改正は注意すべきモノの一つです。
しかし、法令改定は集中戦略を取る企業にとってマイナスばかりではありません。例えば、大規模小売店舗法の廃止(2000年)によって大型チェーン店舗の展開が可能となったため、ヤマダ電機、ケーズ電機、コジマ電機は、地域に根差した電器店から全国展開の規模拡大を一気に進めて事業を大きく成長させました。 法令改正の機に集中戦略からコストリーダーシップ戦略に転換して成功を収めたといえるでしょう。その逆に、”街の電器屋さん”のナショナルショップなどは大型電器チェーン店舗により淘汰されてしまったところも多々あるでしょう。 集中戦略をとっていた企業にとって法令改正のような状況の変化はチャンスとピンチの両方の側面があるようです。
- プロダクトライフサイクル論の導入期での失敗
まだ、小学校低学年の子供に、「将来のおまえ人生を決めろ」と行っても、決断することは不可能です。今後どんな才能が伸びるのかわかりません。また、世の中も変化し求められる才能も変化します。可能性を見極めるためにも拙速な判断はを下さないほうが良いのです。
例えば、日産のリーフは、EVのシェアがNo1となっています。統計上はそうなっていますが、No1だからと言ってコストリーダーシップ戦略をとるようなことを日産はしておりません(EV専用工場やバッテリー工場の建設。EVのラインアップ拡大など)。まだ、EVはプロダクトライフサイクルの導入期にある段階です。この段階では競争戦略を決めてしまうのは早計というものです。日産は誤った決断をしておりません。
これに対し、パナソニックは、薄型テレビがプロダクトライフサイクルの導入期にある段階に「集中と選択」と称して、プラズマディスプレイに経営資源を集中させる決断をして、液晶ディスプレイの事業を石川県の工場ごと他社に売却しました。 その当時は、大型TVの表示デバイスとしてプラズマディスプレイ方式の方が優れているというのは業界の常識ではありましたが、まだ不確実性も残っている導入期の段階であるにも変らず(先走って)「選択」をしてしまったのです。 結果として、後に液晶ディスプレイ方式の技術が大きく進展しプラズマディスプレイ方式は劣位になりパナソニックの経営を苦しめることになります。なお、サムスン電子は、成長期の段階に入るまで、液晶ディスプレイとプラズマディスプレイの2つの事業を温存させていました。LG電子もそうです。この段階の戦略経営として正しい選択でした。
新商品を成功させるためには
- ブレないこと
もしあなたが新商品・新規事業の競争戦略を「差別化戦略」と決めたのならば、全ての活動を統一的に行う必要があります。 例えば、マーケティングの4Pでチェックする「製品:Products」、「価格:Price」、「販路:Place」「プロモーション:Promotion」の全てが、差別化戦略を考慮して進める必要があります。 そして、あなたが新商品・新規事業のリーダーでしたら、それぞれを担当する仲間に「差別化戦略」で進めることを徹底させ、また進捗内容をチェックしなければなりません。
- 強者の場合
あなたが「コストリーダーシップ戦略」が実行できる強者の場合、大量生産&大量販売の正攻法で市場をリードすれば良いのですが、現在の日本において「安くすれば、どんどん買ってもらえる」は絶対の真実ではないことは皆さんも感じておられるでしょう。
かつての高度経済成長期の日本であれば、そして現在の中国や、これからのインドであれば、素直に「コストを競争力にする」ことができるのでしょう。 しかし、今の日本においては、単なる価格の安さよりもコストパフォーマンスが良いと評価されることの方が重要になってきています。だから「コストリーダーシップ戦略」ではなく、「コスパリーダーシップ戦略」(コスパとは、コストパフォーマンスを略した俗語のこと)を追求すべきでしょう。 典型例は家具のニトリです。ニトリのキャッチフレーズは「お、ねだん以上 ニトリ」です。安いだけではなく、コストパフォーマンスが良いことをうまくアピールしております。
コスパを評価するのは顧客視点となりますので、顧客価値のフレームワークの理解が不可欠になります。なお、「コスパリーダーシップ戦略」は筆者の造語です。
また、大量生産を行うことでコストダウンが期待される学習効果のフレームワークについてもコストリーダーシップ戦略を策定する際には知っておくべきフレームワークですので把握しましょう。
※顧客価値、経験曲線は、別途、習得してください。
- 強者の場合
あなたが「差別化戦略」を実行できる強者の場合、それが自惚れではなく、顧客価値を伴っていることをしっかりと確認する必要があります。失敗例で述べましたように日本では、自己満足の差別化商品を作ってしまう例が多くあります。 「日本人のきめ細やかな・・・」「技術立国日本の・・・」などなどのマスコミに踊らされて勘違いをしてしまっていないか注意が必要です。
差別化戦略がうまく実行できて事業が安定したら、これをブランド化していくことが事業継続のために必要です。 カシオはGショックというブランドを周知できたので、その後のレッドオーシャンの競争に完全に飲み込まれることなく、頭一つ飛び出て有利に事業を進めることができました。もし、少し頑丈な腕時計をラインナップに加えて作り続けていただけでブランド化できなければ、多くの競合メーカーの中に沈んでしまっていたことでしょう。
差別化戦略を続けていく中で、もっと差別化が高まる商品を作ろうと研究開発を進めて、顧客にとっては価値を感じないようなつまらないことに開発者が熱を入れてしまうことが無いように注意が必要です。 シャープのクアトロンの例を思い出してください。シャープの技術者は優秀でした。液晶パネルの技術開発を世界一のレベルで進めて社会に企業に大きな貢献をしました。しかし、クアトロンの開発では顧客を忘れてどこか別の世界に行ってしまいました。 プロダクトライフサイクルの導入期や成長期の初期であれば、顧客が追いつけない未来を先取りした開発にも意味がありますが、プロダクトライフサイクルの成熟期になって顧客を置いてきぼりにした開発は技術者の自己満足に過ぎません。社会にも企業にも貢献しない活動であり差別化戦略にも合致しないものです。
※レッドオーシャン、ブランドエクイティは、別途、習得してください。
- 弱者の場合
あなたが「コストリーダーシップ戦略」も「差別化戦略」も取れないような弱者の場合、「集中戦略」しかありません。それでも勝機はあります。織田信長の桶狭間のように。ナポレオンの戦い方のように。
そしてランチェスターの法則には、俗に「弱者の戦略」と言われる戦い方があります。そこで、まずランチェスターの法則の理解を深めましょう。 ※ランチェスターの法則、競争地位の4タイプ、別途、習得してください。
- 状況に応じ戦略を一斉に切り替えること
競争戦略を提唱したポーター教授は、「かならず1つの戦略を徹底せよ!」と言います。
一方で、カシオの腕時計の事業は、最初はコストリーダーシップ戦略に従う安く大量に供給されるデジタル腕時計を主体としておりましたが、途中より差別化戦略となる商品のGショックをラインアップに加えて育ててきました。この商品の存在により、カシオは後発の廉価な腕時計を作る多くのメーカーが登場する中でレッドオーシャンの海に埋もれずないで済みました。
また、ヤマダ電機のように、最初は特定地域への集中戦略で成功を収め、その後にコストリーダーシップ戦略に転じて事業を全国拡大した例もあります。ヤマダ電機は群馬県で成功した後に、大規模小売店舗法の廃止のタイミングで他社に先駆けて店舗を大型化して全国チェーン店に発展しました。ジャパネットタカタも上手な商品説明(顧客価値を適確にアピール)で長崎県の人気店でしたが、TVショッピングという販路の開拓に成功したことを受けてコストリーダーシップ戦略に切り替えました。
だから、超有名なポーター教授の意見に逆らうことになりますが、「状況に応じてダイナミックに戦略を切り替える」ことも厭わないダイナミック戦略論のフレームワークも加えて考えることが必要であると私からは提案をいたします。 もちろん、ずっと決めた戦略を突っ走るという方法も考えられますし、状況の変化が無ければそのほうが良いケースも多々あるでしょう。しかし、ぼやぼやしているとライバルが先に状況の変化を捉えて戦略を切り替えることで、競争に負けてしまうことにも警戒しなければなりません。
その際は、当然ですが、マーケティング4Pの「製品:Products」、「価格:Price」、「販路:Place」「プロモーション:Promotion」の全てを一斉に新戦略に切り替える必要があります。そのためにはリーダーシップも必要となってきます。 いつ切り替えるのかを見極めるため、プロダクトライフサイクル論やイノベーション論の理解も必要です。
※リーダーシップ論、マーケティング4P、プロダクトライフサイクル論、イノベーション論は、別途、習得してください。
最後に
ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授は、「競争戦略」以外にも、「ファイブフォース」や「バリューチェーン」など、多数のフレームワークを提唱しております。
これらのフレームワークも「競争戦略」と同様に長年の検証から「そう間違っていない」と経営学の世界で確認されています。これらも必要に応じて掌握していくことは有効です。
これらのポーター氏の提唱する戦略は、『業界において有利な市場地位(ポジション)を確保するために、どうアクションするのが最適か?』という視点です。このため、通称でポジション論とも言われております。
一方で企業内の資源(人材や技術などの強み)をどう活かすかで、勝負することを重視する経営学のグループ(学派)もあります。
J・バーニー氏を中心に、社内にある資源を活かすことで競争に勝てるというフレームワーク(RVB:リソース・ベースト・ビュー)もあります。
例えば、トヨタのハイブリッド自動車の技術や、それを生み出す”トヨタの改善活動”や”ホンダのワイガヤ”など、他の企業が真似できないような能力(ケイパビリティ)を持つことが勝負になるということになります。
どっちも重要。というのが私の見解であり、状況に応じてダイナミックにどちらの戦略でも繰り出していける企業が勝つと考えております。
2000年の初頭に、液晶ディスプレイの開発力・生産力で世界のトップを行っていたシャープには、間違いなく、社内に資源がありました(人材やノウハウや特殊な器具など)。しかし、競争戦略を間違った結果、取り返しが付かない結果になりました。
経営学の学者はそれぞれの主張を行い、それぞれのフレームワークを担いだコンサルタントが企業の戦略をサポートしますが、サポートされる側の企業としても、どのような武器(フレームワーク)があるのかを知っておかねばなりません。
競争戦略論は、そうした中で習得しておくべき重要なフレームワークの一つです。重要ではあるものの、あくまで数ある中の1つです。このフレームワークだけで解決できるものではありません。頼り過ぎの偏った考え方は最も危険です。
余談ながら、ポーターが競争戦略で「コストリーダーシップ戦略」を発表する50年前の1932年に、この日本で、松下幸之助が「水道精神」と名付けてこの戦略を企業倫理観も含めて見出して彼の指揮する企業(松下電器)の主要な戦略としていました。
松下幸之助は、「電器製品を水道水のように大量に供給できるようにすれば価格も安くなり、世の中は豊になって人々はハッピーになれる」それが我が企業(松下電器のこと)の使命であると考えたのです。
おそらく松下幸之助氏が薄型TVの競争の陣頭指揮をとっていれば、大量生産したプラズマディスプレイや液晶ディスプレイのパネルは、自社のみならず、TVを商品化している競合企業にも提供したことでしょう。
水道精神の考え方です。結果としてサムスン電子のような戦略をとったでしょう。(サムスン電子の李健煕氏の経営手腕は、松下幸之助に似ていると思います。)
また、松下幸之助氏であれば、大規模小売店舗法が廃止されたタイミングで、全国に広がっていた小規模な”街の電器屋さんのナショナルショップ”の中から選抜して大規模店舗化を進めたことでしょう。
ユニクロやニトリのように、大量に作って、大量に売るためには、自社でコントロール可能な大規模チェーン店舗が必要なことは自明だからです。(ユニクロの柳井正氏は松下幸之助の経営哲学を良く研究し取り入れていると言います。)
松下幸之助氏のような天才であれば、競争戦略のフレームワークを知らずとも上記のような行動(サムスン電子やユニクロの事業展開)が自然に行えたことでしょう。(松下幸之助氏は、「雨が降れば傘をさす」と外界の変化に素直に行動を変化させる心がけを持っていました。)
けれども松下電器の社員達は天才ばかりではありませんから今日の結果からみれば、多くの社員が基本的なフレームワークは習得しておく努力が必要であったと言えるでしょう。松下電器の社員ばかりではなく、シャープの社員も同様です。
これからの日本企業では多くのビジネスパーソンが、この競争戦略のフレームワークを習得し、かつ、適用できる条件や限界も掌握してもらいたいと願っております。そうすれば、全くの無知のままでいるよりも遙かにビジネスを失敗させてしまう可能性を低減させ、ビジネスを成功に導く可能性が高くすることができるようになるでしょう。