商品写真撮影
はじめに
新商品・新規事業を顧客に理解いただくために、説明する文書(テキスト)だけではなく、写真(スチル)、映像(ムービー)、イラストのようなビジュアルも用意する必要があります。
インスタグラム、Youtube、FaceBookの爆発的な普及と人気に見られるように、写真や映像の伝達力は言葉では言い表すことができないインパクトがあります。テキストに写真を組み合わせることで相乗効果を発揮します。
新商品が、飲食品であれば、なおさら写真の出来映えが重要になります。おいしそうな写真を用意できるか否かで、情報の拡散速度も、売り上げも、大きく変るでしょう。
新商品が、工業製品であれば、商品の正面や側面など六面の写真を撮影しておくことが必要なことはもちろん、斜め横から撮影する斜俯瞰の撮影も必要です。
一方で、IT系のサービスであれば、商品に物理的な実態が無いので写真などは不要と思れがちですが、これは間違いです。形が無いものであればこそ、どのように使われ、どうお役立ちするのかを「見える化」する努力が欠かせません。
例えば、新しい決済サービスを新規事業として世の中に広めていこうとするのであれば、そのサービスが使われているさまをビジュアル化することが必要です。その画像(スチル)、映像(ムービー)、イラストで、いつ?、誰が?、どこで?、どういうシーンで?、どのように使い?、誰に便益をもたらすのか? を説明することが必要です。これを文章で説明すれば300文字を越えるような内容(読んで理解してもらうならば1分はかかる)になってしまうかもしれません。しかし、写真で表現すれば3秒でわかってもらえるようになります。
科学的厳密さには欠けるかもしれませんが、このように理解してはどうでしょう。テキスト(文字)は左脳(論理)に作用します。これに対して、ビジュアル(スチル、ムービー、イラストは右脳(直感)に作用します。新商品・新規事業の価値を顧客に最大限の効果で伝えていくためには、左右の両方の脳に伝わるようにすることを考えるのです。
スケジュール
ただし、必ずしも、写真撮影、カタログ作成、Webページ作成の順番に工程を進める必要はありません。
写真撮影、カタログ作成、Webページ作成が一塊となって同時進行で制作が進められることもありますし、実は、Webページ製作で重要となるSEO対策で説明する、キーワードを考察した上で、タイトルや文章を考察するという作業は、写真撮影、カタログ作成、Webページ作成は一塊となって製作を進めていく中で行われることが望ましいぐらいなのです。(そうしないと、カタログとWebページでタイトルが異なってしまうようなことにもなりかねませんし、タイトルにぴったりの写真が用意できないかもしれません。)
商品写真撮影の流れ
ここではスチル写真の撮影の工程を中心に説明をします。ムービーの撮影やイラスト作成の場合の注意事項は後半で説明します。
- 欲しい写真のカットを考える
- カメラマン(個人、法人)を探す
- 打合せをする
- 撮影の場所や日時を決める
- 撮影をしてもらう(立ち会う)
- 画像加工を行ってもらう
- 納品してもらう
商品撮影に着手する前段階で用意しておくもの
商品を説明する写真を用意することを考えます。撮影を依頼するためには、どんな写真をどれぐらい用意したいのかを考えておかねばなりません。
カタログに使う写真、Webページに使う写真、商品パッケージに使う写真、ノベルティグッズに使う写真、POPに使う写真、壁面に貼るパネルに使う写真、巨大な横断幕に引き延ばして使う写真、営業資料に使う写真、パートナーに提供する写真、記者に提供する写真(プレスリリース原稿)、顧客に提供する写真・・・など、今後の様々な活動で使用を想定して考えてみましょう。
撮影の現場で臨機応変に撮影するというような”出たとこ勝負”では絶対にうまく撮影ができません。あらかじめ計画しましょう。
撮影内容の検討を開始する前に、今一度、訴求点明確化資料で考察したアピールポイントの5つの要素を確認しましょう。
・エレベータトーク
・メインタイトル
・サブタイトル
・特長3つ
・利用シーン(複数可)
ここで考察したアピールポイントが、効果的に顧客候補に伝達できるような写真を撮影することが欠かせません。訴求点明確化資料を片手に必要な写真をリスト化していきましょう。
- 商品それ自体の写真
こうした写真は、スタジオで撮影されることが一般的です。また、カメラマンに来てもらい、会議室に簡易のスタジオを組み立てて撮影することもあります。
- 利用シーンの写真(寄り)
商品のみならず手も映り込むような場合は、ターゲットとする顧客層に近い”手”の準備も必要です。つまりモデルを雇うことになります。モデルの手配はカメラマン側でしてくれますが、モデルを選定するために必要な情報は伝えておかねばなりません。つまり、どのような顧客層を想定しているのかをカメラマンに伝える必要があります。
同様に、机に置かれたシーンであれば、事務机なのか、お洒落なカフェなのか・・・と机の選定や、一緒に置かれている小物の選定も必要です。商品の顧客をよくよく考えなければ、最適な小物を選ぶこともできません。
こうした写真は、スタジオに商品と小道具を持ち込んで撮影する場合もありますし、カフェや、オフィスなどの実際のシーンを借りて撮影することることもあります。
- 利用シーンの写真(引き)
モデルの広範囲な姿が撮影に映り込むようになると服装や所持品の手配なども考慮する必要があります。どんな人物がどのようなシーンで使うことを想定した商品であるかを考え抜いた人でなければ準備の指示を出せません。
こうした写真は、オフィスやカフェなどの実際のシーンを借りて撮影することになります。
モデルを使う場合の注意点
モデルの顔など個人を特定できるような写真を利用する場合、肖像権の問題も考慮する必要があります。モデルの事務所に対して条件を確認する必要があります。使用期間や媒体をモデル事務所から指定される可能性もあります。条件をクリアするためにより多く費用を支払う必要が生じる可能性があることを考慮しておく必要があります。(特に、有名人をモデルに利用する場合は、厳しい指定が事務所から課される可能性もありますので、綿密な相談が必要です)
合成写真の作成
利用シーンの写真を用意する場合、既存の写真を入手(有償・無情)して、画像を合成して仕上げることもあります。例えば、パリのエッフェル塔の前や、グランドキャニオンの滝壺の前まで撮影に出かけるとなると費用も工数も大変です。宇宙空間に浮かぶ写真の撮影は事実上不可能です。そこで、既存の写真を背景にしてスタジオ撮影した商品写真を重ねた画像加工の処理をすることで写真を作り出すことを行います。うまく合成するためには、組み合わせた情景を想定した上で、撮影する商品の角度や光の加減を行うことが必要となります。
- シーンだけの写真
こうした写真は、既存の写真を入手(有償・無情)して利用することが一般的ですが、上記のようにオフィス、カフェ、車輌などを借りて撮影することもできますが、ただし、商品の特長が特殊である場合は、その特長が活かされるシーンを撮影に出かける必要があるかもしれません。
製作作業を開始する(ここからお金がかかります)
- 準備
見積依頼のため用意するもの
・訴求点明確化資料
・自ら簡易的に撮影した商品写真
・イメージが近い既存のカタログやWebページ
・次の準備まで進んでいれば、カタログ原稿案(表示、裏面)
- 業者選定
カメラマンには得意分野があります。商品(ブツ撮り)、料理や飲食店、人物、建物、風景・・・。 また、スチル撮影とムービー撮影でも得意分野が異なります。さらに用意する機材も異なります。片方しかやらない人や、ある程度両方できる人とさまざまです。 だから、まずは、どのような写真を必要とするのかを決めることが先決です。その上で、その撮影に長けたカメラマンを探すことになります。
Webページで「カメラマン 新商品撮影」と検索すれば、個人事務所から法人まで多彩な業者が検索されます。もし、カタログを制作する業者が決まっていれば、その業者に紹介してもらうこともできるでしょう。
費用もピンキリですし、報酬の支払い方も1枚○○円から、1日拘束で○○円まで様々なバリエーションがあります。金額が10倍も違うことも珍しくありません。もちろん高額なほうが”いい仕事”をしてくれます。
- 業者訪問
撮影業者の候補が決まったら、その業者の事務所に行って打合せをしましょう。現場に行くと気がつくこともあります。例えば、機密情報が漏れるような悪い意味でオープンな事務所であったら困りますよね。必ず一度は訪問しましょう。
そして、製作の責任者(ディレクター)に対して口頭で相談をしてみましょう。新商品・新サービスがどんな顧客にどんな価値を提供するものであるかを説明するのです。優秀なディレクターであれば、あなたの意図をくみ取って、その道のプロとして、あなたが思っている以上の内容の提案もしてくれるでしょう。 一方で、優秀ではないディレクターは、指示されたことを撮影の作業をするだけの作業しかできません。十年以上のビジネス経験を持つ人ならば、これらを口頭で相談すれば感じ取ることができるでしょう。
複数の業者を回って納得できる方に会うことも大事です。ディレクターの能力は概して制作費に比例するものではありますが、同じ程度の金額でも成果物の内容に倍ほどの差があることも少なくありません。
- プレゼン
まず、説明する前に機密保持契約書にサインをしてもらいましょう。(機密保持契約書をあらかじめ送っておきましょう)
前段階で検討したエレベータートーク、メインタイトル、サブタイトル、特長1、特長2、特長3、利用シーン案 の資料がこの説明時に役立つでしょう。
また、試作品であっても、現物を持っていったほうが良いでしょう。また、スマホのカメラなどで自分で撮影した写真も提示できれば、撮影して欲しい角度や、注目させたい特長ポイントの位置などをうまく伝えることができるでしょう。
さらに、自社に類似商品があればそのカタログを準備したり、競合品のカタログがあれば、それを提示しながら説明することも効果的でしょう。これら既存のコンテンツを踏まえて、今回の撮影ではどう違いを出したいのかを説明します。
逆に、カメラマンの過去の実績となる写真を提示・説明してもらいましょう。実際に商用利用された写真を見せてもらうことができれば、依頼する側としても安心感が増すことでしょう。
- 試作段階の商品
撮影用に用意できる商品が試作品となる場合もあります。このような場合は、量産品とは異なっている箇所をディレクター、カメラマンに説明し、撮影前の段階から対応策を一緒に検討しておく必要があります。
多少の傷はコンピューターグラフィック(CG)処理による合成で消し去ることができます。ランプが光っているように見せるような加工もできます。やや難易度が増しますが、多少の凹凸の変更や、企業名や商品名のロゴを加える(貼り付ける)ことや色合いを変更することもCG処理で可能です。水滴を付けるような加工も多少は可能です。
撮影を行う際には、これらCGによる後処理を想定して、撮影角度や光の当て方を工夫したりすることを行います。また、手に持つような商品であれば不正規箇所を手で覆って隠すことなども考えられます。このように不正規な箇所の影響を最小限に抑えることような打合せしておきます。
なお、映像(ムービー)を撮影する場合は、不正規を隠すようなCG処理は、スチルに比べてかなり大変になります(費用も増します)ので、一層良く打合せが必要です。
- ロケの実施、モデルの有無、小道具の内容を決める
ロケによる撮影を行う場合は撮影場所を借りるために費用が発生します。またモデルを使えば費用が発生します。小道具の準備でも費用が発生します。 だから「こんな雰囲気のお店で、こんな雰囲気の机で・・・・」という希望を打合せの場で説明しておく必要があります。
- 条件提示
見積金額にはかなりの差がつくことがあります。3倍も5倍もつくこともあります。暴利? コスト高の会社? と疑いたくなるかもしれませんが、質の高い撮影や後処理を行おうとすると費用もかかるものです。 どの程度のクオリティで納得できるか(妥協するつもりであるのか)を業者に伝えていくことが肝心です。グラフィックの製作は抽象的なのでなかなか伝達しにくいので、例えば、既存のカタログのサンプルを見せて「こんな感じにして欲しい」と具体的に伝えると良いでしょう。
また、納品時の商品写真のファイル名は、あらかじめ相談してルールを決めておきましょう。例えば、Photo001、Photo002、Photo003、Photo004・・・という感じで納品してもらうと後で利用する時に面倒です。だから、SX-A001_front01.pngという具合に、商品品番+撮影情報のようなファイル名で納品してもらうことを条件としてお願いしておきます。
- 見積の取得
以上の打合せや条件提示の元で見積も出してもらいます。そして、撮影を依頼する業者を決定します。
なお、撮影の業者は下請法が適用される規模の企業であることも少なくありません。下請法に抵触しないように留意する必要があります。
基本的には難しいことではなく、商道徳に従う正々堂々としたお取引をすれば良いのことです。きちんと見積をいただき、発注書を書面で発行し、期日までに支払うということです。 無理な価格(指定価格)や納期の要求をするようなことは禁じられています。また、支払いも遅滞なく行う必要があります。
※撮影の発注する場合は、自分の会社の資本金が 5,000 万円を超える場合は、5,000 万円以下の会社または個人事業者との取引に下請法が適用されます。次に、自分の会社の資本金が5,000万円以下で、かつ1,000万円を超える場合は、1,000万円以下の会社または個人事業者との取引に下請法が適用されます。
商品写真の撮影(立ち会う)
商品の特長を顧客に印象強く説明するシーン撮影が求められますから、なによりも商品の特長と顧客へのお役立ち内容を知っている人でなけば、適確な指示ができません。カメラマンに任せきりにすると”ありえない”写真が撮影されてしまう失敗のリスクもあります。
また、商品にブランド名が印刷されている場合は、ブランドがくっきりとピントが合っているかの確認もしましょう。逆に、意図している場合を除き、商品を引き立てるための小道具に記された他社のブランド名が映り込まないように配慮しましょう。
画像加工をしてもらう
撮影した写真を後処理の作業で綺麗に仕上げるのが一般的です。コンピュータにより多彩な加工ができるようになっています。逆に言えば、後処理の作業を前提として撮影を行うことになります。
例えば、パリのエッフェル塔の近くのカフェの机上に新商品があるという想定ならば、既存のエッフェル塔の写真と机と商品を組み合わせた上で、商品に当たる光の加減などや色合いなどを調整してもらう加工をしてもらうことになります。
商品についている傷などの課題のある箇所をコンピュータによる処理で綺麗にしてもらいます。また、ランプが光っているように見せる加工を施すこともできます。その際は、どのような色合いで、光の強さはどの程度であるのかなどの情報をあらかじめ提供する必要があります。
スマホやパソコンなどの表示画面に、ソフトウェアのキャプチャー画像を貼り付けるような加工も行ってもらいます。(なお、この程度の加工であればカタログ印刷の制作業者でも十分に可能です。)
納品してもらう
写真のデータは巨大になります。そこでDVDで納品してもらいます。相談した通りに、商品写真のファイル名が付けられているかを確認しましょう。また、納品時には以下であるように、打合せ時にはお願いしておきましょう。
- どのような写真が収納されているのかを、サムネール形式で見えるようにした資料を添付してもらいましょう。
- 各ファイルを数MBサイズ以内になるよう圧縮したファイルも同時納品してもらうことにしましょう。これで、関係者にメール添付などで商品写真を簡単に送ることもできますし、PowerPointへの写真の貼り付け作業も容易にできるようになります。
- モデルの肖像権や、有償フォトを利用した場合は、後でトラブルが起きないように、その使用条件を書面化して納品するDVDに添付してもらいましょう。
ムービーの場合の注意事項
動画を撮影するとしても、仕上がりが、数秒の素材映像なのか、ストーリーのある映像なのかにより、撮影にかかる準備も作業も費用も大きく異なります。
- 数秒の素材映像の撮影
下記のような、数秒程度の簡単な動画であれば、利用シーンのスチル撮影と並行してムービー撮影を行うことも調整を行えば可能です。
○商品を使っているシーン
持つ、傾ける、落とす、蓋を開ける、交換する(電池を、ゴミパックを・・・)などのワンショットのシーンです。
○商品を作っているシーン(料理の場合)
鍋に油を注ぐ、明るく火柱が立つ、お皿に盛り付ける、湯気が上がる・・・などのワンショットのシーンです。
ただし、カメラマンのスキルによってできる範囲が異なります。また用意する機材も異なってきますので、機材次第でできる範囲が異なります。(カメラは兼用できるとしても、照明の準備、音の収録の準備、それを操作するスタッフの手配などが異なってきます。)ですから、打合せ時にしっかり相談しておくことです。 また、撮影に要する時間には上限がありますから、この点での制限も出てきます。効率的・効果的な撮影を実現するため、スチル撮影班とムービー撮影班の2班体制で臨むこともあります。
カタログの制作ではスチル写真のみを用意すれば良いのですが、Webページの製作までの展開を考えると、こうした数秒程度の映像が収録できれていれば、より顧客候補の心を動かすWebページに仕上げて行くことができるでしょう。商品の特長を効果的に説明することもできるでしょう。
- ストーリーのある映像の撮影
まず、ストーリーの作成から行うことになります。しかしその前に、利用用途を明確にしておく必要があります。例えば、発表会のようなハレのシーンで使う映像なのか、Youtubeに掲載して顧客からのアクセスを期待するPULL型の映像なのか、TV-CMのようにマス広告として発信するPUSH型の映像なのか、販売を担う営業が使う活動支援の映像なのか・・・・と主な利用目的次第で、ストーリーも異なってきます。 ストーリーが決まりましたら、そこから絵コンテを作成してもらいます。この絵コンテレベルで、打合せを繰り返すことになります。
絵コンテの段階で、役者の台詞、ナレーション、挿入するテロップ、挿入する効果音も秒単位で決めていきます。絵コンテの段階で80%完成と言って良いでしょう。逆に言えば、撮影に入った時点ではもう仕上がりを変更することはほとんどできません。
ストーリーのある映像の製作となると、他の販促コンテンツよりも格段に費用が必要となります。でも、映像製作は、一度は検討してみましょう。極端な例ですが、「ピコ太郎」のYoutube動画が大ヒットしたおかげで、ピコ太郎は、トランプ大統領(と娘)の前で芸を演じることができました。このように映像のインパクトは想像を越える計り知れないものがあります。どんなに素晴らしいカタログを作っても、どんなに手練れの営業マンを擁していても、インパクト映像一発で、世界中のどこでも届くことができる到達力では映像にはとてもかないません。