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採用事例(ケーススタディ)の公開

はじめに

 既に商品を利用しているお客様の声を紹介することにより新商品の良さをお伝えすることは、非常に効果的なマーケティング活動になります。ネットショップでの買い物でも、会食や宿のネット予約でも「口コミ」が重要な購買行動の判断となっていることは、ご自身の個人的な体験からも良く理解できることでしょう。
 また、個人での購買活動(B2Cビジネス)のみならず、法人の購買活動(B2Bビジネス)の場合でも「その商品の実績」情報は重要な購入決定の判断材料となります。B2Bビジネスの場合は、B2Cビジネスの場合よりも商品それ自体の機能や性能の比較だけではなく、より実績を重視する傾向が高いからです。例えば最先端であると思われる宇宙開発や軍事用アイテムにおいては、新技術・新商品よりも旧式の実績ある商品のほうが選ばれるようなケースも少なくありません。原子力発電に関わる機器などもそうです。ここまで極端な例ではなくてもB2BビジネスではB2Cビジネスよりも実績を重視する傾向にあります。それゆえ、採用事例を紹介するコンテンツを作ることは新商品の販売を拡大していく上で非常に重要になります。

 また、採用事例コンテンツを作ることによる経営効果は、次の顧客獲得の活動に有効であるだけのことではありません。次のマーケティング活動を計画するために必要不可欠な情報収集の活動でもあります。さらに、次の商品を企画・開発するためにも必要な情報を得る活動にもなります。採用事例コンテンツを作成するために情報収集した内容は、マーケティング活動においても、新商品開発においても、ナレッジマネージメント(知識創造論のフレームワーク)を回していくための重要な材料にもなるのです。一石二鳥の活動なのです。


スケジュール

 新商品を発表してから、ある程度の時間を経なければ採用事例コンテンツを作ることはできません。新商品の発売から数ヶ月で採用事例コンテンツを作る事が可能になる場合もありますが、商品によっては1年以上の時間経過が必要な場合もあります。商品の特性によりタイミングは様々です。
 ただ、明らかなことは、「良い採用事例コンテンツとなりそうな顧客が獲得できたらやる」ではなく、新商品のマーケティング戦略を立案していく段階で、「時期未定ながらも採用事例コンテンツを意志をもって作る」を計画に組み込んでおくことが必要です。
 例えば、著名な展示会等のイベントの日程が明らかであれば、ここで採用事例コンテンツをお披露目して、顧客候補の方々への新商品アピールを強めて商機を拡大することを前提に、逆算のスケジュールで採用事例コンテンツを製作するスケジュールを計画することを考慮してみましょう。

 採用事例コンテンツの制作は、だいたい以下のステップで進めることとなります。早くて3ヶ月から半年ほどの時間を必要とします。詳しくは後段で説明をしていきます。
 1)戦略的準備(誰に何を訴求するのか?調査と検討)
 2)取材させていたく候補企業(候補者)の選定。そして依頼と許諾の取得。
 3)広報上の考察
 4)取材と原稿制作
 5)採用事例コンテンツの公開


採用事例コンテンツの内容

 起承転結の流れを踏んだ文書を作ると良い物語文ができるように、採用事例コンテンツは、以下の4つの流れを踏んだ要素で検討すれば、ほぼ間違いの無い内容のコンテンツができるでしょう。

  • 顧客価値
     商品の採用前(Before)にはどんな課題があったのか?そして、商品の採用後(after)に、問題はどう解決されたのか?

  • 競争優位
     顧客は、新商品の購入の過程で他の商品との比較検討をした結果、どういう点を評価して「我々の新商品」を選んだのか?(競争優位)

  • 予想外の結果
     ある程度の予想(仮説)を持って顧客へのヒアリング(取材)に臨まなければなりませんが、これとは異なる内容(良かったこと、思わしくなかったこと、・・・)がヒアリングできれば、これを記録する。

  • 残された課題や今後の展望
     現時点で残っている課題や、これからの商品に期待することを最後にヒアリングします。


「予想外の結果」、「残された課題や今後の展望」の内容は、一般公開する採用事例コンテンツに記載するかどうかは内容次第で決めます。一方、組織内部向けの資料にはこの点の記載は重要となる情報ですので記載は必須となります。

 ここまでの流れで文書を組み立てることができれば、採用事例コンテンツは“表向き”は一旦完成となります。そして、ここまでの“表向きの体裁”だけの内容ならば、商品とこれを取り巻く環境についてある程度の知識や経験を持ったディレクター、ライター、カメラマンに取材作業を依頼すれば、まあまあのコンテンツを仕上げてもらえるでしょう。また、マスコミなどの一般的な報道の取材記事もこの程度の内容で仕上げられていると言えるでしょう。
 しかし、採用事例コンテンツは、そのコンテンツを見た次の顧客候補の琴線に響いて、次の顧客候補の方の購買行動に影響を与えなければ目的を達成できているとは言えません。この点がマスコミなどの報道取材で作られるコンテンツとは大きく異なる点です。そのため、採用事例コンテンツの制作の作業では、“裏を準備”した上(戦略的な土台を作った上で)で、“表向きの体裁”を整えていくようにしていかなければなりません。
 つまり、上記の4つの流れを踏むだけでは不十分で、もう一歩踏み込んで裏の土台まで戦略的に考察した準備の上で、流れを踏んだ内容を作り上げていく必要があるのです。そして、この考察は、新商品を誰よりも熱心に考えてきた新商品のリーダーの方々にしかできない作業となります。この裏の土台作りの活動は、後述する「戦略的準備」項で説明いたします。


採用事例コンテンツのパターン

 採用事例コンテンツは、お客様のお名前を公開できるか否かで以下のパターンが考えられます。

  • お客様名を公開した採用事例コンテンツ
     お名前が公開されていれば採用事例コンテンツの内容の信用度を高めることが期待できます。また、知名度の高い企業や人物であれば興味を持って読んでもらえるケースも多くなることでしょう。
     例A=「トヨタ自動車様が採用して世界80カ国に出荷された高性能部品」
     例B=「冒険家 植村氏がエベレスト登山に必ず持っていく高性能な***」

     もし、例Aの様な採用事例の紹介ができれば、世界中の自動車会社があなたの高性能部品の新商品に興味を持ってくれることでしょう。100の商品特長を説明することよりも1の事例を紹介することの方が強力です。同様に例Bのような採用事例の紹介ができれば、冬山登山の愛好家のみならず、キャンプを趣味としている人、スキーを趣味としている人、防災に関心のある人、防災の担当者(企業、自治体、町内会・・)と、多くの分野の人の興味を引くことができるでしょう。
     ただし、お客様の許諾をいただくために多大な努力が必要になるケースが多く、これを乗り越える必要があります。まして、有名企業や国や自治体の機関の場合は、「特定企業の宣伝行為になる活動には協力できない」と断られてしまうような場合も少なくありません。実際、例Aのような採用事例コンテンツをトヨタ自動車が許諾してくれる可能性は一般的には極めて低いでしょう。(例外的にチャンスを得る方法はいくつかあります。後述します。)

  • 匿名で公開するパターン
     お名前の公開を許諾いただけない場合や、敢えて名前を公開しないような場合には、匿名による採用事例コンテンツを作ることになります。この場合は、名前を公開できている場合に比べて説得力がやや劣ります。それでも顧客候補の方が必要としている情報を伝達することができれば、購入への意欲を高めることが実現でき、新商品を購入いただく説得材料になり得ます。
     例A=「高度なセキュウリティ対策を必要としているA社様に採用されました」
     例B=「40代の管理職のSさんが、日頃から**に愛用している商品は・・・・」

     例Aの場合には、もし「国内大手警備会社に採用・・・」と追加的に記載すれば、それはALSOKかSECOMであろうと多くの日本人ならば想像がつくでしょう。よって、社名は出さないものの類推できるような書き方をすることは効果を高める一つの方法として考えられます。もちろん、この方法を採る場合は、顧客からクレームをいただかないように根回ししておくことは欠かせません。無理はすべきではありません。

  • 統計的な処理で公開するパターン
     アンケートを行うことで、実績を数値で説明する採用事例コンテンツを作り上げることができます。匿名よりも説得力がありますが、手間も費用もかかります。
     例=「購入者の●●%が使って良かったと回答しています。
        さらに、特に年代別に見ると、40代男性では便利になったと回答した人が・・・・」

     このような方法で採用事例コンテンツを作る場合は、アンケートの設計にある程度の知見が必要です。また、アンケートを行っても収集したデータが意図した結果とは違う結果となってしまい予定した事例コンテンツが出来上がらないリスクも理解しておく必要があります。
     統計処理が正しく、かつ、読み手の興味を抱かせる内容となっていれば、新商品の購入行動に高い説得効果を持つことが期待できます。


法令遵守

 日本で配布する販促物は、景品表示法に違反しないような表現・表記にしなければなりません。採用事例コンテンツの内容でもこの点に注意を払わなければなりません。例えば、「従来の2倍の効果があった」と実績を訴求するのであれば、その根拠を示さなければなりません。 また、比較対象が何であるかも示しておかねばなりません。もちろん比較対象が妥当と社会的に判断できる商品を選ばなければなりません。
 ここ最近は、こうした法令対応(回避)を意識した”せこい”採用事例コンテンツによる広告が目立つようになりました。 具体的には「従来よりも倍ぐらい良くなった」と表記しておきながら、下段に注記として、「※個人の感想です」と表記する手法です。(大部分はB2Cビジネスの場合)
 お勧めできませんが、手法として存在しており、未だに法的措置が執られていないのでグレーゾーン的に実施も可能なのでしょう。これも一つの方法として把握しておくことは必要だと思いますので、ここで追記しておきます。しかし、こうした個人の体験談の手法での説明でも、実際に効果が得られない人が多くいるような場合は法的措置が執られることになるでしょう。
 


採用事例コンテンツ製作の流れ

 では、実際に採用事例コンテンツの制作にかかりましょう。以下のステップで進めていくことが良いでしょう。それぞれの説明を順次行っていきます。

戦略的準備(Step0)
 戦略思考で事前準備を行う(何を訴求するのか?調査と検討)
 敵を知る(顧客の考察)
 己を知る(自己の考察/競合との差)

取材させていたく候補の選定。そして、候補者(候補企業)への依頼と許諾(Step1)
 事例に取り上げる顧客を抽出
 顧客の許諾を得る

広報上の考察(Step2)

取材と原稿制作(Step3)
 業者の選定
 取材前のブリーフィング
 取材の実施 (統計手法の場合はアンケートの実施)
 一次原稿の確認
 原稿の仕上げ

採用事例コンテンツの公開(Step4)


戦略的準備(Step0)

 コンテンツの土台となるもの それは戦略です。まず戦略を土台として考察した上で準備をしなければ、採用事例コンテンツの作成はスタートできません。ここは新商品のリーダーご自身が考えて、仮説となる答えを導き出していかなければなりません。誰に何を訴求するのか?の調査と検討を行います。
 ・戦略思考で事前準備を行う
 ・敵を知る(顧客の考察)
 ・己を知る(自己の考察/競合との差)

 経営学の知見から導かれた様々なフレームワークがこの考察作業をサポートしてくれます。フレームワークを知っているのと、知らないの、では大違いです。新商品のリーダーは、基本的なフレームワークをビジネスパーソンの基礎力として身につけておくことは欠かせません。ただし、ビジネスの現場は、フレームワークの通りに動かないことの方が多いぐらいですから過度の依存も禁物です。道具は使うモノであり、道具に使われないようにするということです。つまり、少なくとも道具を「知らない/使ったことも無い」ようなことは避ける。しかし、道具に「使われてしまう」ようなことに陥らないようにも注意する。そして道具は、うまく使う、臨機応変(ダイナミック)に使う、組み合わせて使う。

  • 戦略思考で事前準備を行う
     取材先を決める前に、また、具体的な取材活動に入る前に、経営学で認知されているフレームワークの知見を活かしてコンテンツの内容を計画する(土台を作る)ことを行いましょう。これにより戦略に従う効果的な採用事例のコンテンツに仕上げていくことができるのです。
     そのための第一歩は、孫氏の兵法「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」です。これは良くご存じでしょう。故事ではなく、今の採用事例コンテンツの検討の際にも有用な知見です。
     よって、お客様に商品を採用いただいた経緯を取材させていただく前に、ご採用いただいたポイントをわかる範囲で調査を行って、推測を含めて資料化を行います。(敵を知り、己を知れる)


  • 敵を知る(顧客の考察)
     まず、誰に事例コンテンツを読んでもらうのでしょうか? それは新商品を買ってくれる次に顧客候補となる方々ですよね? では、その方々はどういう行動特性をもっているのか把握されていますか? もし、顧客の特性も把握していない状態で取材活動を行えば、孫氏の兵法「敵を知り」に反する活動となってしまいます。 つまり、採用事例コンテンツの読み手側の方々(つまり、次の顧客候補)が興味を持つように、また、納得してもらえるような話題や事実がコンテンツの中に盛り込んでいなければ、書き手側の自己満足の取材文書に終わってしまいます。(新聞記事ならば、記者のジャーナリスト魂に従って取材記事を書けば良いのですが、採用事例コンテンツは明確な目的があり、これを実現できない内容になってはいけないのです。)だから、新商品を買ってくれる顧客候補の方の心理を含めた行動特性の把握は必要です。
     そして「敵を知る」の敵は、もう一人いると考え進めましょう。すなわち、1)これからあなたの商品を採用してもらう未来の顧客と、2)あなたの新商品を採用してくれた現在の顧客の2人です。両方の把握に務めましょう。
     この2人の敵を把握するために用いるフレームワークは、イノベーター論(普及理論)です。また、プロダクトサイクル論も理解しておくことが望ましいでしょう。

    【イノベーター論(普及理論)】
     まず、イノベーター論(普及理論)にしたがって、顧客の特性を把握し、その特性に対応する話題がコンテンツ中に登場するように内容を考えておくことが大事になります。
    Innovation_theory
    顧客の特性をイノベーター論で推定
     例えば、新商品が急速に普及していく段階の購買層となるアーリーマジョリティを採用事例コンテンツの読者と想定するのであれば、アーリーマジョリティ層の方々が興味を持つ内容にしておかなければなりません。では、アーリーマジョリティの方々とは?
     イノベーター論で説明されている一般的なアーリーマジョリティの行動特性は、『アーリーマジョリティは、アーリーアダプターの人々の評判が良ければ、新商品やサービスの採用をします。アーリーマジョリティの心を掴むためにも、アーリーアダプターの評判を獲得することは大事になります。』となります。
     よって、アーリーアダプタ層の方が採用された実績を取材するのが良いでしょう。そしてその際のヒアリングするポイントは・・・・、とフレームワークの知見をベースにして考察を進めます。

     イノベーター論(普及理論)のフレームワークを理解して、どんな点に注目して考えれば良いのかをいろいろと考察してください。
     新商品を成功に導くイノベーター論のフレームワーク https://ichikawa-mktlab.com/framework/Innovation_theory.html
     もちろん、フレームワークの鵜呑みにせず、道具に「使われてしまう」ようなことに陥らないように注意しながら、臨機応変に、他のフレームワークやあなたや組織の経験も組み合わせて使うのです。

  • 己を知る(自己の考察/競合との差)
     己を知るために用いるフレームワークは、資源論(RVB)による「VRIO」と、ポジショニング論による「競争戦略」です。この2つのフレームワークを組み合わせて考えましょう。
     自分の新商品の何が優れているのか?あるいは競合他社に対して劣っているのかを理解しておくことが必要です。

    【VRIO】
     まず、簡単なのはRBV論によるVRIOです。
    VRIO
    持てる強みを分析
     言い換えればあなたの商品の持つ「強み」です。顧客はあなたの商品と競合他社の商品とを見比べながら商品の選択を行い、購入を決定することでしょう。だから、あなたの新商品が顧客に選んでもらえる理由が必要です。
     あなたの商品が競合他社の商品よりも 「性能が優れている」「実績が豊富」「安い」「コストパフォーマンスが良い」「使える関連商品が多い(ネットワーク外部性)」「長年の歴史がある(経路依存)」・・・を列挙してください。この分析・考察にVRIOのフレームワークが役立ちます。
     また、相対的に優れているのか? OnlyOneの強みなのか? などの内容も重要となります。
     さらに、競合商品の強みもVRIOの分析視点で併せて考察して列挙してみましょう。さらにさらに、競合する企業の商品では無いものの他の顧客が代替として満足できるような商品があれば、これもライバルとして考察してみましょう。

     VRIOのフレームワークを理解して、どんな点に注目して考えれば良いのかをいろいろと考察してください。
     新商品を成功に導くVRIOのフレームワーク https://ichikawa-mktlab.com/framework/VRIO.html
     もちろん、フレームワークの鵜呑みにせず、道具に「使われてしまう」ようなことに陥らないように注意しながら、臨機応変に、他のフレームワークやあなたや組織の経験も組み合わせて使うのです。

     VRIO分析をさらに深めて、先に検討した普及理論のフレームワークの視点も組み合わせてチェックを行っておきましょう。
    VRIO
    例えば、レイトマジョリティならば
     例えば、レイトマジョリティ層の販売拡大を狙って採用事例コンテンツを作ろうとしているとしましょう。もし、あなたが商品の「強み」だと拘って思っているような特長があったとしても、果たしてそれはレイトマジョリティ層の立場の人に対しても「強み」だと言える特長なのでしょうか?レイトマジョリティ層の方が重視しない『最先端テクノロジー搭載』のようなポイントをここで「強み」として取り上げてコンテンツの中で語っても、この方々の琴線には響きません。
     逆に、「たいした強みではない」と思っていることでも、レイトマジョリティ層の立場の人にとっては、とても重要な商品選択のポイントだと言えるようなこともあるかもしれません。例えば、『他社よりも機能が豊富ではない』は弱点のように思えますが、レイトマジョリティ層の方々から『簡単に使えて安心』という高い評価を得ているかもしれません。もしそうした可能性があることが取材前に推測ができていれば、取材時のインタビューでは「安心してすぐに使えて良かった」という声をヒアリングから引き出すこともできるでしょう。


    【ポジショニング戦略】
     次に考えておくことはポジショニングによる競争戦略です。また、併せてランチェスターの法則も理解しておくことが望ましいでしょう。
    VRIO
    競争戦略と整合性あるコンテンツを作る
     あなたが業界のトップのポジションにある場合と、そうではない場合では、次の一手に用いる戦略が異なります。採用事例コンテンで話題として取りあげる内容も商品のポジションと乖離していては戦略ミスマッチになります。
     例えば、業界で高いシェアを持ち、コストリーダーシップ戦略を取っている場合ならば、差別化戦略で用いられるような、他社にはない特長をコンテンツの訴求の中核として打ち出すような内容としてしまうと、ちぐはぐになってしまいます。

     競争戦略のフレームワークを理解して、どんな点に注目して考えれば良いのかをいろいろと考察してください。
     新商品を成功に導く競争戦略のフレームワーク https://ichikawa-mktlab.com/Competitive_strategy.html
     もちろん、フレームワークを鵜呑みにせず、道具に「使われてしまう」ようなことに陥らないように注意しながら、臨機応変に、他のフレームワークやあなたや組織の経験も組み合わせて使うのです。

     例えば、あなたの新商品が競争戦略論の差別化戦略を採用しているのであれば、差別化のポイント(高価格だけど高性能、納期がかかるけど綿密なカスタマイズが可能・・・・ )を採用事例コンテンツの話題に織り込み、ターゲットとなる顧客に「私の場合にもあてはまるぞ・・・」と思ってもらえるようにしなければなりません。
     一方、あなたの新商品が集中戦略ならば、集中させているポイント(地域、業界、使い方・・・・)を事例コンテンツの話題に織り込み、ターゲットとなる顧客に「オレの場合にあてはまるぞ・・・」と思ってもらえるようにしなければなりません。
     あなたの新商品がコストリーダーシップ戦略ならば、競合を意識して特長を強調することはムダではありませんが、それよりも、市場そのものを拡大して、より多くの販売と利益を得るためのするための事例コンテンツを作りましょう。そのためには顧客価値を重点としたポイント(便利になった。早くなった。楽しくなった・・・・)を事例コンテンツの話題に織り込み、「オレも同じように購入して便利になろう・・・」と追従者を増やすようなコンテンツを作ることが大事になります。
     さらに併せて、先に検討した普及理論のフレームワークの視点も組み合わせて考察することも欠かせません。アーリーマジョリティ層の立場の人は、アーリーアダプター層の方が重視した「なるほど納得(合理的判断)」のポイントが事例コンテンツから得られると購買行動につながりやすくなります。一方、レイトマジョリティ層の立場の人は、アーリーマジョリティ層の方の実績による「それなら安心(情緒的判断)」のポイントが事例コンテンツから得られると購買行動につながりやすくなります。

    【ランチェスターの法則】
     ランチェスターの法則のフレームワークからの知見も、採用事例コンテンツの内容に活かせる点が多々あります。
     ランチェスターの法則のフレームワークを理解して、どんな点に注目して考えれば良いのかをいろいろと考察してください。
     新商品を成功に導くランチェスターの法則のフレームワーク https://ichikawa-mktlab.com/Lanchester_strategy.html

     例えば、もしあなたが業界の2番手のポジションにある場合について考えて見ましょう。この場合は業界トップの企業からシェアを奪うような(威勢の良い)活動ではなく、3番手、4番手の企業からシェアを奪うような(弱いモノいじめ)活動をすることが効果的であることがこのフレームワークから示されています。
     だから採用事例コンテンツの制作の際にも、あなたが業界の2番手のポジションにあるような場合ならば、3番手、4番手の企業からのシェアを奪うことを想定し、3番手、4番手企業の弱点を突くような話題を採用事例コンテンツの中で取り上げて、顧客から「(3番手、4番手企業には無い)***の機能が良かったです」とインタビューで引き出すようなことができれば、戦略的にも効果的なコンテンツになるでしょう。(良く言えば話を引き出す。悪く言えば話を誘導する。)もちろん、トップ企業にも弱点があれば隙を突くような話題を取り上げることも欠かせません。
     また、経営幹部、営業責任者が「どうしてもトップ企業と勝負したい」と強く望むのならば、トップ企業の弱点を突くコンテンツとして仕上げることも考えられます。ここで大事なことは、戦略の実践における整合性です。商品開発や営業活動とプロモーション活動がバラバラでは効果的に成果を収めることができません。いくら社会科学的な研究から作られたフレームワークの手法であっても経営は全て科学的に処理できるものではなく、カン(ひらめき)や感情などを含む芸術的な側面も持ち合わせているものであり、フレームワークは臨機応変に利用するもので、これに縛られるようになってはならないのです。

     このように採用事例コンテンツを仕上げていく前段階として、有名フレームワーク(普及理論、プロダクトライフサイクル論、VRIO、競争戦略、ランチェスターの法則・・・)の知見を駆使して、事前に戦略に従う準備を行うことが欠かせません。そうした準備をした上で、お客様を取材して、戦略に従う内容にコンテンツを仕上げて行きましょう。


取材させていたく候補の選定、依頼、許諾(Step1)

 戦略的準備で考察した内容にベースとして、採用事例コンテンツの内容が最も効果的になりそうな顧客を選びます。その顧客に採用事例として紹介させていただく依頼を行い許諾をいただきます。そして、さらに許諾をいただければ取材をさせていただきます。

・事例に取り上げる顧客を抽出
・顧客の許諾を得る1
・顧客の許諾を得る2

  • 事例に取り上げる顧客を抽出
     既に採用いただいた顧客リストを見ながら営業部門と相談をしていくことになります。これから新規に商品を買っていただく新規の顧客を呼び込むのに最適な顧客を選びましょう。

  • 顧客の許諾を得る1
     営業部門からお客様に打診をして『事例紹介させていただくことの許諾』をもらうことになりますが、概して営業部門は協力的ではありません。まず、営業部門の協力を得る内部的な活動が最初の活動です。
     顧客に許諾を得る時の営業パーソンの心情としては、既に納品した顧客を再度訪れたところで、新たな注文をいただけるワケではありませんので、もっと他に活動を向けたいと思うのが一般的です。また、間接販売の場合は、代理店や販売店などの許諾や利権も絡みます。こうした調整も営業活動の一環で必要となってきます。他にもいろいろと非協力的にならざるを得ない理由もありますが、概して協力的ではない営業に協力してもらうことが欠かせませんので、営業との調整が顧客に依頼する前段階にから必要となってきます。
     よって、新商品のリーダーは営業責任者や優秀な営業パーソンに対して、「良い顧客を得られたら、採用事例コンテンツで取り上げさせてもらうことの許諾も取ることに協力してくださいね」と新商品を売り出す前の時点からお願いをし続けておく必要があります。また、そのためにもマーケティング4Pの「PLACE」の具体的な理解が欠かせません。組織内の身内とは言え、営業部門の手間や不安を取り除くための協力や説明を日頃から行っておく必要もあります。

  • 顧客の許諾を得る2
     まず、顧客の許諾を得るために、資料を用意する必要があります。参考例はコチラ
     最終的にはどのようなコンテンツになるのか? いつごろ、どういう方法で公開していく予定なのか? 取材をさせていただくならば、その時間や用意いただく諸々の事柄を紙面にして提示しましょう。
     顧客が事例の公開や、取材OKの回答をするためには、顧客の組織内で稟議を回して許可を取っていただく手続きが多くの場合で必要となります。これを円滑に進めていただくためにも、資料を用意して顧客への依頼時にお届けすることが欠かせません。
     資料が整ったら、営業と共に顧客に出向いて依頼を行います。必ず相手の立場になって、依頼を受ける身の損得勘定をよく考えてから訪問しましょう。一方的な依頼ではうまくいきません。双方Win-Winがビジネスの原則です。
     なお、こうした「依頼の資料」や「OKをいただいた資料」は、エビデンスとして履歴を残していくことも必要です。後になって、「そんなことは許可していない」などと齟齬が生じることをできるだけ避けるための作業です。自己防衛として履歴を残しましょう。書面で履歴を残すことができれば望ましいですが、現実的にはメールのやりとりが多くなるでしょう。メール文書も消さずに残しておくのです。


広報上の考察(Step2)

 ここで条件が合うようならば、広報活動を併用することを考えてみましょう。つまり、マスコミに情報を流して、新聞、雑誌、TVなどでニュース、特集、コラムなどの記事として採用事例の話題を取り上げてもらうのです。
 マスコミの記事として広く公開されれば、オウンドメディア(自社のWebページ、自社で発行・配布するパンフレットなど)に掲載して自前で告知活動をするよりも広範囲に情報が広がることが期待できます。より多くの顧客候補の方々の目に入り、耳に入り、新規商談に至るきっかけとなる可能性が高まります。
 方法は3つあります。
 A)マスコミに取材をしてもらい記事化してもらう
 B)プレスリリースを行い、マスコミに記事として掲載してもらう。
 C)A+Bの実施

 また、マスコミの取材に同席すれば、記者目線での質問による取材が行われます。この場合、新商品やライバル商品、そして顧客についての意外な発見があることがあります。さらに、業界の課題、隣接する業界からの影響、法改正や社会規範との関連・・・ こうした新しい発見を得る機会になるかもしれません。こうしたメリットを得るためにも条件が合えば、マスコミによる取材を調整する価値があります。
 もちろん、この活動を行う場合は取材を受けてもらう顧客に、マスコミの記事となることについての許諾をいただく必要があります。多くの場合は、マスコミの記事になることに対して前向きの回答をいただけますが、嫌がる方もおりますので、マスコミに声を掛けるよりも前に打診しておくことが必要です。

  • A)マスコミに取材をしてもらい記事化してもらう
     記者の方に「面白い採用事例がありますから記事にしませんか?」と打診し、記者の方による取材を実現するのです。ただし、いくつかの条件があります。
    記事の例
    採用実績を取材記事してもらう
    物流専門誌の例
    <条件1>
     記事となるだけの話題性があるか? タイミングが良いか? 読者が喜ぶ話題か?
     例えば、2021年度初頭であれば、コロナ対策として有効な実績を上げた商品やサービスの話題であればタイミングの良いネタとしてマスコミに取り上げてもらえる可能性は高いでしょう。
    <条件2>
     オウンドメディアで公開してしまった採用事例コンテンの話題ではニュースとしての新鮮さが失われています。すでに公知のものとなっている話題だからです。よって、オウンドメディアでの公開前にマスコミによる記事化が実現することが望ましいのです。
     なお、ニュースの新鮮度を重視する度合いはメディアの特性により異なります。このため、既にオウンドメディアで公開している話題では全くダメということでもありません。
    <条件3>
     日頃からマスコミとの付き合いを持っていなければ、こうした活動は容易にできません。あるいは、日頃からマスコミを利用して広告を入れているようであれば編集長も話しを聞いてくれるでしょう。
     しかしながら、必ずしもコネや人脈が無くても、編集部に直接電話をしてネタを売り込むことは可能です。彼らはネタを常に探しています。内容さえ面白ければ話を聞いてくれるハズです。

  • B)プレスリリースを行う。
     マスコミの取材を呼び込むのではなく、自前でプレスリリースを行うことによって積極的に発信することも広報活動として検討してみましょう。B2Bビジネスでは時々行われる方法です。
    プレスリリース
    実績をプレスリリースで告知している
    トヨタ自動車の例
     ただし、”プレスリリースを行うに値する”と世間で理解を得られるだけのニュースバリューが必要です。言い換えれば、広く知れ渡ることが企業の社会的使命として必要な行為であることです。
    例えば、
    「世界初の先端技術が社会に広まり始めたことを案内する。」
       2021年初頭であれば、5Gサービスを利用した***を世界に先駆けて実運用したような話題
    「多くの人々が利用する公共性の高いサービスに影響する話題」
       2021年度初頭であれば、コロナ対策に有効な***が医療現場で活用され始めたような話題 
    「100万台の販売を達成」「100万人の会員獲得を達成」
      区切りの良い数値や、過去最高の数値を記録したような実績を話題とするもの。日用品からハイテクまで幅広い範囲で可能なプレスリリースの方法の一つです。


     B2Bビジネスにおいては、商品やサービスを採用いただいた企業の広報部門に相談を行い、内容の許諾を確認しながら進める必要があります。よって、広報のスキルと経験が必要です。また、この企業に販売した代理店などの販路や導入に関わった企業の許諾もとっておくことも欠かせません。
     プレスリリースを行っても、マスコミにとって興味が沸かないような話題であれば、残念ながら記事にならない可能性もあります。また、運にも依存します。プレスリリースを行った日に、社会を揺るがす大事件が起きれば、たとえ面白い話題をプレスリリースしていたとしても無視されてしまうこともあります。

  • C)マスコミの記事化とプレスリリースの合わせ技
     マスコミの記事化とプレスリリースの合わせ技を行うことも考えられます。具体的には、プレスリリース前に内々に特定の記者に打診をして取材を行ってもらいます。そしてこの記事が掲載される日やその前日に、プレスリリースを行うのです。裏技的ではありますが、一石二鳥の情報発信を行うことができます。


  •  ※それでも自前の採用事例コンテンツの作成は欠かせません。
     マスコミによる記事化が実現して広く新商品の活用が知られるようになることを期待しつつも、自前のコンテンツを製作してオウンドメディアに掲載していく必要性は変りません。当たり前ですが、記事は記者の目線で書かれます。新規顧客の獲得につなげたいとする新商品のリーダーが持つ思惑とは異なります。 また、取材はしてもらったものの「思ったほど面白くなかった」と記者が判断すれば、記事にならない可能性もあります。あるいは小さな記事で終わってしまう可能性もあります。
     よって、「戦略的準備」で用意したマーケティング戦略を土台とした自前の採用事例コンテンツを広報活動(記者に取材してもらう)とは別に用意する必要はあります。 なお、オウンドメディアに掲載する自前の採用事例コンテンツは、マスコミ記事の掲載と同時かやや遅れて掲載するよう計画しましょう。


取材と原稿制作(Step3)

 ここまで準備が整いましたら、いよいよ採用事例コンテンツの製作を開始します。コンテンツ制作の具体的な作業については、カタログ製作やWebページ製作の章も参考にしてください。
 
 取材なしで情報を集める
 取材を行う場合は業者を選定
 取材前のブリーフィング
 取材の実施 (統計手法の場合はアンケート)
 一次原稿の確認
 原稿の仕上げ

  • 取材無しで情報を集める
     まず、取材を行わずに採用事例コンテンツを作る場合について説明します。時間や費用を掛けずに事例取材コンテンツを作る場合や、取材を申し入れたものの拒まれてしまった場合です。
     この場合は、顧客に商品を販売した営業から経緯の聞き取りを行い、また調査なども行ってコンテンツの原案を仕上げます。(ホシを挙げるために関係者に聞き込みを行う刑事ドラマのような感じですね)  写真の撮影は、顧客からの許諾をいただいた上で営業が顧客を訪問した際に、スマホのカメラなどで撮影してきてもらいます。
       →営業にヒアリングを行うシートの例はこちら 
     情報を集めることができたら、取材は行わなかったため一部は推定となる原稿を作成します。この一次原稿ができましたら、顧客に内容を確認してもらうため「初稿の確認依頼」の項に飛びます。

  • 取材を行う場合は業者を選定
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    いよいよ業者に発注
     取材を行って採用事例コンテンツを製作する場合は、取材活動をしてもらうディレクター、ライター、カメラマンを手配する必要があります。つまり業者に発注することになります。できるだけ良い業者を選びたいところですが、紹介できる良い選抜方法が確立されていないのが実情です。縁などに頼らざるを得ないのが実情で、プロモーションを中長期的に手掛けていないと逸材にリーチできないのが実情です。
     新商品が属しているカテゴリーに詳しい人を取材クルーとして起用することができれば望ましいでしょう。例えば、携帯電話やこれに関連する新商品の採用事例ならば、携帯電話について詳しい人がインタビューをしなければ、読み手が知りたいと思う「的を突いたインタビュー」が行われることが期待できないでしょう。また、B2Cビジネスか、B2Bビジネスによっても起用する人のキャリアが影響します。 もし、この例のような場合であれば、携帯電話の専門誌の記者をやっていた経験を持つフリーライターのような方がいれば最適です。しかし、そういう逸材にはなかなか巡り会えないのは実情です。携帯電話の専門誌に広告などを行っていれば、その雑誌の編集長に頼んで、誰かを紹介してもらうことなどが考えられます。
     同様に、カメラマンも取材対象となる相手(すなわち撮影対象)に関する知識や経験により、取材時に持参するカメラ、レンズ、照明、音声・・・などの機材が異なり、また撮影にも得意、不得意があります。


  • 取材前のブリーフィング
     取材を実施するメンバーが確定しましたら、取材計画を話し合う必要があります。もちろん、いつ、どこで、誰が・・・という具体的な計画を決めることも必要ですが、誰に読んでもらう? 何を理解してもらう? 商品を購入する動機を後押しできる? と言った戦略的準備の段階で考察した内容を関係者に徹底させることが良い取材のために大事になります。
     そして、採用事例コンテンツの方向性について取材を行う関係者の頭の中を1本にまとめておきます。出撃前の兵士が隊長の元に集まり、作戦についてレクチャーを受け疑問点があれば洗い出しておくことと同じです。
     また、このブリーフィングのために いつ、どこで、誰が、・・・の取材計画書をあらかじめ作り上げておきましょう。

  • 取材計画書の作成と取材先への提示
     ブリーフィング資料から内部情報などを除いた形で、顧客に提示する取材計画書として仕上げて取材前に顧客にお送りして、事前に用意をしておいてもらうことが円滑な取材を実現する上で望ましいでしょう。以下の項目は必ず入れておきたいものです。
      ・質問させていただく主な内容  (5~10項目程度)
      ・撮影させていただきたいと考えているシーン
      ・インタビューさせていただく部屋の確保もお願いしておく。白い壁を背景とした、中規模の会議室(8~16人程度)が望ましいです。
      ・採用事例コンテンツの制作や公開に何か条件があれば記入してもらう覧を設けておく。
         →参考例はこちら

  • 取材の実施
     計画された日時場所で取材を行います。インタビューは30分~1時間程度でしょう。誰でもインタビューを受けるとなれば緊張しますので、最初は笑顔で世間話からスタートします。
    取材
    取材風景
     インタビューさせていただく内容には、「戦略的準備」で考察した内容(顧客価値や競争優位性など)が盛り込まれていなければ、商品の販売を加速する有意義なコンテンツには仕上がりません。顧客の口から「***の点が良い商品だった」(競争優位)、「効率が向上して従来よりも***となった。」(顧客価値)と、語っていただけるように、あらかじめ展開を考えたインタビューを準備しなければなりません。
     同様に、写真の撮影(含むビデオ撮影)も「戦略的準備」で考察した内容をビジュアル的に説明できるようなカットが撮影できなければなりません。キャプション(写真の下につける短い説明文)も想定しながら撮影しましょう。 また、撮影時には、後々に肖像権の許諾などの問題を生じさせないよう、意図した人以外の方の顔や名札などが写真・ビデオの中に映らないように撮影するよう注意を払いましょう。例えば、名札など個人が特定できるものはハズしていただくことや、個人が特定できないような角度で撮影することなどが想定されます。(顔の映り込み)カメラマンには、ブリーフィング時にこうした指示をあらかじめ与えて置く必要があります。(このような取材に手慣れたカメラマン以外は、こうした課題を理解しておりませんので、取材前のブリーフィング時に徹底しておきましょう。) もちろん、インタビューを行い、名前を公開する予定の方はこの限りではありません。


  • 初稿の確認依頼
     取材をさせていただいた顧客に『取材させていただきヒアリングした内容に齟齬は無いか?』の大筋の確認をしていただくための一次原稿(初稿)を作成して内容の確認依頼を行います。また、掲載予定の写真も提示して『不適切な映り込みが無いか』の確認も行います。
     この内容は、インタビューで知り得た事実が骨子となるものの、その中に「戦略的準備」で考察したポイント(顧客価値や競争優位性など)が盛り込まれていなければ、商品の販売を加速する有意義なコンテンツになりません。確認いただいた後になってこうした話題を書き足すことは難易度が上がりますので、初稿の段階から準備したポイントが文章に表現されていることが必要です。
     なお、顧客に初稿を確認いただく前に、「次の顧客を獲得していくための活動として有意義なコンテンツ内容になっているか」を営業部門にチェックをしてもらうことも欠かせません。営業部門が狙おうとしている次の顧客層の方々の琴線に響く内容でなければ、効果が薄い採用事例コンテンツになってしまいます。あるいは逆に悪影響が出るようなコンテンツになってしまってはいないかのチェックも必要です。例えば、新商品を褒める勢いが強く、旧製品を卑下するような内容ですと、現時点で旧製品をお使いのお客様からお怒りを買うようなことにもなりかねません。
     さらに、「技術・品質上の間違いが無いか」をこれを担当する部門に確認しておく必要もあります。例えば、取材先の顧客が性能や機能を誤解していたために、不適切な内容をインタビューで説明してしまうような場合もあります。このインタビュー内容をそのまま記載すれば、商品をオーバースペック(時にはマイナスで)で説明するような誤った内容になってしまいます。あるいは、商品の仕様を外した不適切な使い方(事故や故障を誘発しかねない)を推奨するようなコンテンツになってしまう可能性があります。
     このように、顧客に初稿を見ていただく前に、内部でのチェックを先行していろいろと行っておく必要があります。インタビュー相手に一次原稿の確認依頼をした後に大幅にあらすじを変えるようなことはできませんので、この最初の原稿の段階で内容は最終形の8割の完成度まで仕上がっていなければなりません。
     そして、初稿の確認依頼は、インタビューに関わった関係者が忘れてしまわないウチに行うことが望ましく、取材の1週間~10日後ぐらいに実施することを目標にしましょう。 このような短時間に(関係者の記憶がホットなうちに)インタビューさせていただいた方に内容確認の依頼を行うためには、取材前から、あらかじめ準備ができていることが欠かせません。イメージとしては、取材前に6~7割の骨子(仮説のあらすじ)は出来上がっている状態であることが望ましいと言えるでしょう。準備段階での仮原稿の仕上がりが完成予想の半分以下ならば、まだ取材を進めないほうが良いぐらいです。

  • 原稿の仕上げ
     初稿の確認依頼に対して顧客から「言い過ぎたので削って欲しい」という修正依頼や、「説明が足りなかったので補足するように」、「写真の**の箇所は削って欲しい」と言ったチェックバック情報が返されてきます。すかさず、これらの修正を行って二次原稿を仕上げます。
     そして、出来上がった二次原稿を顧客に確認してもらいます。変更する内容によっては、組織内で営業や開発部門にもチェックをしてもらってから顧客に送ります。
     こうした原稿の往復を数回ほど繰り返して最終原稿に仕上げて行きます。
     顧客から「これでOKです」の最終確認をいただき、採用事例コンテンツが完成します。


採用事例コンテンツの公開(Step4)

    CaseStudy
    パナソニックの採用事例コンテンツ例
  • 完成原稿の公開
     Webページ、販促物のチラシ、映像(Youtubeなど)、雑誌などの広告記事・・・・ 完成した採用事例コンテンツの公開を行います。
     公開日は、できるだけ効果的なタイミングの日に設定するのが良いでしょう。例えば、大々的な展示会を計画しているのであれば、その少し前に、採用事例コンテンツの公開を開始し、次の商談獲得のターゲットとなる顧客層に向けてメールマガジン、DMなどでアピール活動を行って展示会への誘導を行います。

  • 顧客に対して御礼
     公開作業を行ったら、取材をさせていただたいた顧客に対して連絡を行います。

  • ナレッジマネージメント
     組織内で、取材で得られた情報をナレッジマネージメントで回していく活動を促進します。
     例えば、マーケティングの4Pのフレームワークを利用して4つの要素で「次の一手」を考えてみましょう。 Products→ 次の商品開発は?、オプションなどの関連商品の充実は?(逆に削減は?) Price→ 顧客価値に対して、商品の価格は適切だったか?もっと儲けるには? Place→ 販路は機能していたか? 競争優位は正しく顧客に伝わっていたか? Promotion 次のプロモーションでは? など
     成功した商品は、顧客から得られた声を「次の一手」に反映して修正を繰り返した結果ということが多いものです。最初から狙った通りの大成功を収めた例はそう多くありません。採用事例コンテンツを作る活動は新商品を事業として成功させるプロセスの重要なパーツと言えるでしょう。



最後に

 採用事例コンテンツの製作に協力いただけない場合や実名公開を拒まれた場合に、これを実現する方法を該当者の立場に立って考えてみましょう。

 まず採用事例コンテンツに登場することで個人としては、名前や顔や活動がWebページなどで公開されることになります。このメリットは”自慢できるようになる”ことです。例えば、自分の子供に活躍している姿を第三者の資料を通じて見せられることは彼(彼女)にとって誇らしいことでしょう。また、キャリアアップとして、昇進・転職に有利になる可能性もあります(実績をアピールできる材料となる)。こうしたメリットを感じていただくことで、事例取材に協力してもらうことができれば、採用事例コンテンツの制作の一助となるでしょう。
 一方で、デメリットもあります。プライバシーにも関わる情報を広く開示したくはない、目立つのはイヤだ(職場の人間関係の影響なども)と、お考えの方にとっては、採用事例コンテンツに登場することは苦痛となることでしょう。そうであれば、これを避ける方法を提案することで採用事例コンテンツの制作が円滑に進むこともあるかもしれません。いずれにせよ、取材を受けていただく方の心情に配慮して依頼を進めていくことが大事になります。採用事例コンテンツを作る過程はビジネスライクにはいかないものです。

 次に、組織(企業・自治体)の立場になって考えてみましょう。組織も採用事例コンテンツに登場することのメリットがありますので、この点を説明して協力いただく取り組みも考えてみましょう。社会的な活躍を公開することは、例えば、採用活動(新卒、中途入社)に有効でしょう。また、ある程度の規模の企業であればIR対応の一環として説明責任を果たしていく活動にも繋がります。
 ところが、有名企業や国や自治体の機関の場合は、「特定企業の宣伝行為のためには協力できない」と断られてしまう場合も少なくありません。でもあきらめてはいけません。こうした場合でもマスコミなどの第三者を通じて取材を申し入れることで、名前の公開を含む採用事例の公開を許諾してもらえることがあることは既に述べました。
 もう一つの方法は、その企業の状態を把握してチャンスを掴むことです。例えば、部門の責任者が替われば、返答が変る可能性があります。なんらかのコネでその企業の経営幹部にアプローチできるパイプが見つかった際にはその筋を使って「お願い」を行ってみるのも機会があれば方法の一つとなります。 また、その企業に不祥事などがあった場合(例=品質問題、談合・・・)には、事後にできるだけ明るいニュースを社会に流したいとその企業(の広報)は考えますので、そういうタイミングに事例取材を申し入れると、お堅い企業も門戸を開いてくれることがあります。要するに一度や二度のお断りを受けたぐらいで簡単にあきらめないことです。