トップフレームワークネットワーク外部性

ネットワーク外部性

ネットワーク外部性の重要度ランキング

重要度 C
リーダー必要度 ★★★★★ 必須教養 全員に必要なものとは言えませんが、基礎教養と言えるでしょう
理解容易度 ★★★★★ 非常に容易 誰もが実体験している普遍的なことです
活用容易度 ★★☆☆☆ やや難 個人で理解はしても、組織ではこのフレームワークを活かした活動が取れないケースも


はじめに

 新商品・新規事業を担うリーダーにとって、ネットワーク外部性のフレームワークは教養として身につけておきたいフレームワークの一つです。  もし、あなたの新商品・新規事業が「ネットワーク外部性」の効果がそれほど大きくなければ、参考程度の教養で済ませば良いでしょう。しかし、「ネットワーク外部性」の効果が大きい商品を扱っているのであれば、非常に重要なフレームワークとなります。この新商品・新規事業におけるネットワーク外部性の効果を発揮させるために(外部に向けて)経営資源を投下することが、商品やサービスの企画、開発、製造、販売、宣伝と同じぐらい重要になってくるでしょう。
 そもそも、自分の商品ばかりに注力して視野狭窄に陥らず、商品を使うお客様の立場になって『どうしたら便利か?』を考えることは大事なことです。その考察を深めるフレームワーク一つとして「ネットワーク外部性」は有効です。


概要

 「ネットワーク外部性」とは、商品の利用者数や利用率が増えると、その商品を持つメリットや利便性が増えるという現象です。仲間が多いとお互いに役立つということです。電話が有効なのは、多数の人が電話を持ってそのサービスを受けているから有効なのです。小学生が、皆がニンテンドーのゲームで遊ぶから、僕もニンテンドーのゲームを買って欲しい。中学生ならば、皆がスマホを使うから、私もスマホを買って欲しい。という現象は誰でも理解できるでしょう。
 逆に、多くの人がEVを買うことを躊躇するのは、充電設備があまり普及しておらず、使用が面倒になりそうだからというように、新商品の普及の課題が、新商品それ自体ではなく、「皆が使っていない」という外部に理由があるようなケースも見られます。

 「ネットワーク外部性」が効果を発揮するためには、「クリティカルマス」と呼ばれる一定の普及率まで、顧客を広げる必要があります。この普及率を超えるとその製品・サービスは急速に広まるからです。
 このため、新商品の「クリティカルマス」を早急に確保するため、初期段階で新商品に興味を示してくれるイノベーターやアーリーアダプターに対し、利益を度外視した安い価格設定や、キャンペーンと称して返金サービスなどを行う施策が見られます。


演習:ケーススタディ(具体的な商品の事例で考察)

  • iPhone
    アップルiPod
    iTunes会員を擁するアップル
     例えば、アップルのiPhoneが普及したのは、iTunesという音楽配信サービスでアップルが多数の会員を既に持っており、「クリティカルマス」を確保していたことが大きく影響しているでしょう。iPhoneは、iTunesという音楽配信サービスを受けることができる商品でしたので、最初から「クリティカルマス」を持つことができました。iPhoneそれ自体も優れた商品でしたが、この「クリティカルマス」の確保が既にできるような商品に仕立てたことがiPhoneの大成功の要因として大きいでしょう。
     このように、既に「クリティカルマス」を確保している状態となるように新商品の仕様を決めることも有効です。既存の商品との互換性を持たすことは良く見られます。


  • ペイペイ(バーコード決済サービス)
    paypay
    ペイペイ100億円あげちゃうキャンペーン
     「ペイペイ」というサービス名でバーコード決済サービスに参入したヤフーによる「ペイペイ100億円あげちゃうキャンペーン(2018年12月スタート)」などが記憶に新しいところです。金の力でクリティカルマスを確保するという大胆さは、孫正義氏が率いるヤフーだったからできたことでしょう。
     日本のおカタイ金融機関の息のかかった決済サービス会社ではとても想像できないような行動でした。



よくある失敗・注意点

 あなたの上司先輩同僚は、ネットワーク外部性を理解して仕事をされているでしょうか?残念ながら「外部のこと」に興味を持たず、「特長ある商品を作ること」にひたすら熱心な人達を多く見かけます。競合に比べて優れた特長が無くても競合よりも先にクリティカルマスを獲得できれば、新商品・新規事業は成功するのです。

  • ソニーのウォークマン
     それまで、携帯音楽プレーヤーの代名詞とも言えたソニーのウォークマンが、iPod&iPhoneに敗れ去ったのは、音楽プレーヤーそれ自体の優劣ではなく、「ネットワーク外部性」の効果を発揮するiTunes会員で、アップル社が「クリティカルマス」を確保できていたことによるものです。
     携帯音楽プレーヤーだからと言って、「優れた音質」「長時間駆動」とか「軽い・薄い」といった商品それ自体の機能や性能向上に心血を注ぐばかりで、外を見る目を失うと、商品も事業も栄光も失ってしまうことなるのです。自分達の新商品が、「ネットワーク外部性」の効果を十分に理解していなければ、たった数年で負けてしまうことがあるという失敗の事例です。

  • 3Dテレビ
     10年ほど前に、日本の電機メーカー各社は3Dテレビを相次いで商品化をしました。メガネを掛けて映像を見ると立体的に映像が見えるというテレビです。ご存じのようにこの製品は全く普及しませんでした。3Dのコンテンツが豊富に出回らなければ、3D対応のテレビを買う意味がありませんから当たり前の結果です。
     もし、「ネットワーク外部性」というフレームワークを日本の電機メーカーの経営陣と、企画、開発、製造、販売、宣伝の各担当が周知していれば、3Dテレビの製品開発と同じエネルギーを掛けて、3D映像コンテンツの普及にも尽力したことでしょう。しかし、そのような活動は見られませんでした。(パナソニックだけが、深夜の放送枠で3Dコンテンツを細々と流していた実績はありますが、微々たる行為でした)



新商品を成功させるためには

 あなたの新商品・新規事業が必ずしも「ネットワーク外部性」の影響を受けるとは限りません。まずはこの点を見極めましょう。もし、「ネットワーク外部性」の影響を受ける可能性が低ければ、このフレームワークを考慮する必要がありません。
 一方、「ネットワーク外部性」の影響を受けるとしたら、ライバルよりも先にクリティカルマスを確保することが急務となります。その際は、成功例に上げた、アップルやヤフーのように資本力があれば、力押しでクリティカルマスの確保に動けば良いでしょう。ただし、両社ともカリスマ経営者が率いていたので大胆な投資を迅速に行えましたが、サラリーマン経営者が率いる組織の場合は、慎重に組織の根回しを行って資本を(外に)投下する説得を行う必要があるでしょう。このフレームワークを知っていれば説得にも役立つでしょう。
 資本力が競合よりも劣るようであれば大々的な活動はできませんので智恵で競合よりも先にクリティカルマスを確保する活動を行っていかねばなりません。競合に関知されないよう静かに活動して、相手が気付いた時には競合が容易に追いつけないぐらいにクリティカルマスを確保してしまう必要があります。

 GAFAに代表されるアメリカ西海岸のIT企業が、世界で一人勝ちを収めて高額な利益を独占していることは、戦略経営における「ネットワーク外部性」のフレームワークの重要性を強く認識させられるものです。
 「ネットワーク外部性」というフレームワークは、20世紀で行われた新商品や新規事業の検討時よりも、より慎重に考察をしなければならないフレームワークになったと言えるでしょう。


最後に

 ソニーの携帯型音楽プレーヤーの失敗事例や、パナソニックの3Dテレビの失敗事例は、共に日本の電機メーカーの失敗事例です。おそらく、経営陣も各担当も「ネットワーク外部性」というフレームワークの名称や仔細までもは知らなくても、その概念は理解できていたのではないかと思われます。 (なにせ、冒頭にあるように任天堂のゲームの事例のように誰もが体感できることですから。)それにも関わらず適切な対処ができませんでした。知っていることと実行することは別ということです。
 だから、これから新商品や新事業に関わる担当の方は、「ネットワーク外部性」というフレームワークを念頭において自らの活動を行うと共に、日本企業の組織内における活動においては、その理解が乏しいことから発生する理不尽な決定に泣かされることも想定した上で、組織を動かしていく努力を強いられることを覚悟しておきましょう。