推奨書籍 新商品・新規事業を担うリーダーの方へ
世界「失敗」製品図鑑
副題 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道 |
著者 荒木 博行 |
出版社 日経BP社 |
一部過去の外国の商品もありますが、多くは日本人ならば知っている身近な商品を取り上げて、それが成功できなかった分析をわかりやすく解説してくれております。
成功した商品や事業を話題に取り上げた書籍は巷に多く出回り、成功要因を分析して、これに続く成果を得ようとする試みは多々あります。しかし、それと同じぐらいに失敗した商品や事業を分析して知見を得ようとすることも大切なハズです。
この書籍では20のケースを取り上げています。常人が考え得る正しい取り組みをしていても、残念な結果に終わってしまったケースも多々紹介されています。失敗時の対処方法で参考になるケースや、失敗の経験が次の成功商品に役立てられているケースも紹介されております。
有名な製品であるが故に、いずれも数百億円~千億円レベル投資のケースなので、大部分の新商品・新規事業のリーダーにとっては遠い話のようにも思えます。しかし、分析的に考えれば規模の大小に関係なく、参考になる知見に溢れています。
著者の筆致にも好感を持てます。いずれのケースに対しても、後付けでフレームワークを無理に適用して批判的に分析するようなこともなく、新規事業に取り組んだ人達に暖かい目線を送りつつも、冷たい批評家ではなく、チャレンジャーのコーチのような感じで分析している筆致に好感が持てます。そうした点も新商品・新規事業を担うリーダーに推奨したい書籍です。
確率思考の戦略論
副題 USJでも実証された数学マーケティングの力 |
著者 盛岡 毅 / 今西 聖貴 |
出版社 角川書店 |
目標実現のために、統計学から導かれる仮説をベースにマーケティング戦略を組み、実データを当てはめて、仮説検証を行いながら戦略を具体的な戦術に落とし込んでいく考え方が実例(ハリーポッターのアトラクションの導入)を交えながら紹介されています。この考え方や進め方は、様々な新商品・新規事業を担うリーダーには大いに参考になることでしょう。
ただ、大学で統計学や確率論を勉強した者でなければ、記されている数式の理解は難しいかもしれません。私は理系学科出身ではありますが、残念ながら本書にて示された数式は、概念は理解できても数式を操作することまではできません。ということは応用動作はできないということでもあります。
こうした論理展開や数式を見せられると、日本企業の組織には「そんな理屈じゃないんだよ」と拒否感や嫌悪感を見せる人も少なく無いでしょう。著者自身も「日本人は感情と理性を切り離すのが難しい人も多く・・・」と伸べています。
たしかに、理屈ではなく「まずはやってみる」というのも一種の戦略であり、本田宗一郎のように不可能を次々と可能にして事業を成功させていったようなやり方(戦略)を正しく理解しておくことも必要ではあります。
要するに、両方を知った上で、両方を使いこなす力を持つことが大事であると私は思っています。片方だけを熟知して自信をもっている人が一番危ういと感じます。 そうした上で、本書は、合理的・数学的なアプローチという一方に触れる良い書籍だと思います。
FACT FULNESS
副題 10の思い込みを乗り越え、データを元に世界を正しく見る習慣 |
著者 ハンス・ロスリング |
出版社 日経BP社 |
でも実情は? 以下の簡単な質問のあなたの回答は?
Q1:世界中の1歳児の中で何らかの病気に対して予防接種を受けている子供はどれくらいいるでしょう。
A 20% B 50% C 80%
Q2:世界中の30歳の男性は平均10年間の学校教育を受けています。
同じ歳の女性は何年間の教育をうけているでしょう。
A 9年 B 6年 C 3年
この問題、大部分の人が間違えてしまう。Q1の正解率は13%しかない(三択だから猿でも33%の正答率が得られるのに。日本人の正解率はなんと6%しかない)。国際舞台で活躍する見識ある・地位のある・教育を受けている人々でさえ猿以下の正答率とのこと。ファクト把握の段階で誤っていたら、まず正しい判断は下せないでしょう。 Q1回答=C Q2回答=A
なぜ? 単に最新情報をインプットしていないから? いや、それよりも人間は本能的に・・・あとは本書をお読みください。
人間の性とでも言うべき、ゆがんで認知してしまう誤りは、経営の中でも当てはまることと予想できます。新商品・新規事業の立ち上げにいそしむビジネスリーダーも同様です。ビジネス書ではないが教養書として一読の価値があると思います。親近感が沸く筆者の読みやすい語り口も本書の魅力です。
かもめになったペンギン
副題 - |
著者 ジョン・P・コッター |
出版社 ダイヤモンド社 |
この著者のコッター氏は、ハーバード大の経営学者でリーダーシップ論の教鞭と取る有名教授です。 新商品・新規事業を担うリーダーならば、自らの苦しいリーダーシップ活動の中で参考にできるものですし、また、無知な経営幹部にぶち当たった際にも、このフレームワークを利用して既存事業への危機感と新規事業の模索チームの必要性を説得することを試みましょう。
この書籍の初版時に帯でこの書籍の推奨をしていたのは松下電器の社長の中村邦夫氏でした。つまり、中村氏はコッター氏の経営改革のフレームワークを周知しており、松下電器の経営改革を進める手法はこれに参考にしたと考えても間違いないでしょう。
さらに中村氏がコッター氏のフレームワークを採用したと推測できる理由があります。コッター氏は、松下電器について非常に詳しい知識を持っており研究をしていたからです。なにしろコッター氏には「松下幸之助論」という著書があります。コッター氏はハーバード大学で教職を得たのは松下幸之助の寄付講座だったのです。小学校も卒業していない日本の経営者(松下幸之助)の類い希なリーダーシップに興味を持ったことは当然かもしれません。
そして、おそらく中村氏は、企業改革を進めている松下電器の社員にこそ、「変らなければ、生き残れない」と、この本を読んでもらいたかったでしょう。
幸之助論
副題 「経営の神様」松下幸之助の物語 |
著者 ジョン・P・コッター |
出版社 ダイヤモンド社 |
そうした中で、ハーバードビジネススクルールのコッター教授が松下幸之助の生涯を調べた情報からまとめられた書籍ですから、経営学の視点でリーダーシップに接する資料として読むに値するでしょう。
新商品・新規事業を担うリーダーの中でも、ベンチャー企業を率いて経営者の側面も持つ必要のある方には、参考にできる具体的で血が通った活動方法が見つかると思います。松下幸之助は、今時の米国東海岸MBA出身のプロ経営者のような情報処理的な手法で経営を行っていたワケではなく、迷いながらも情熱をもって新規事業に取り組んでいました。
また、松下電器の社員の方々にも推奨できる書籍でしょう。松下電器の社史として知らされている情報は、企業として不適切・不本意な情報は残されにくいものです。たとえば、松下幸之助に多数の妾がいたことなどです。しかし、学者としてはそうした点も含めて経営者のリーダーシップを評価します。ハーバード大学の名誉にかけても偏った提灯記事のような記述をするこはできません。客観性が高く信用のおける情報と言えるでしょう。
「イノベーター」のジレンマの経済学的解明
副題 - |
著者 伊藤 満 |
出版社 日経BP社 |
そこで、この書籍がお勧めです。この書籍はとても読みやすい筆致で書かれており、かつ、現在(2020年)の感覚でイノベーションのジレンマを段階を追いながら実証してくれます。「ぐ~ぐる」(そう筆者が書いている)や「フェイスブックは嫌いだ」など、今の時代感覚で、経済学の難しい理論を使った分析も軽いタッチで話しを展開してくれます。
なお、著者は日本人ですがイエール大学の准教授です。イエール大はハーバード大の宿敵と筆者が茶化してます。また、日本人とアメリカ人の両方の感性で書いてくれているのが楽しく感じられます。
両利きの経営
副題 「二兎追う」戦略が未来を切り拓く |
著者 チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン |
出版社 東洋経済新報社 |
「両利きの経営」は、こうした課題に答えてくれるフレームワークです。本書では、具体的な失敗例・成功例(コダックと富士フィルム)をいくつも示しながら説明をしてくれますので、とても読みやすい経営学の書籍です。ただ、米国企業の事例は、日本人には馴染みのない企業もあるのでピンと来ない事例が半分ぐらいでした。
新商品・新規事業を担うリーダーは、無知な経営幹部にぶち当たった際に、このフレームワークを利用して説得することを試みましょう。また、新商品・新規事業を担うリーダーが、新規事業の創造が成功するための環境がどのようなものであるかを理解できていれば、より望ましい環境を整える方向に動けますので挑戦を成功に導ける確度も高められるでしょう。
実は、15年ぐらい前に、ハーバードビジネスレビューにこの論文が掲載されており、これを職場の営業部長が事業責任者にコピーを配って説明しておりました。私もこの新規事業の構成員としてコピーを受け取りました。その時の私は全く無知で「イノベーションのジレンマ」すら良く知りませんでしたし、「両刀使い経営(と当時は書かれていた)」について深く興味も持ちませんでした。
結局、この時の新規事業は2年程で解散となりました。そして、この事業部門は徐々にじり貧になり、ごく最近(2019)、他社に売却されることになりました。まさに「イノベーションのジレンマ」の通りに衰退し、「両利きの経営」のチャンスを逃した結果でもあります。
優秀な現場リーダーが警告を発していたのにもかかわらず、事業部長から上の経営幹部が無知であるが故に、見事に事業を殺してしまったのです。経営学に無知なまま内部昇格して事業責任者になって経営を担うことは、無免許のまま街で車の運転を行うことと同じくように危ういことと考えるべきでしょう。
ホンダ イノベーションの神髄
副題 エアバッグ、アシモ、ホンダジェットはここから生まれた 独創的な製品はこうつくる |
著者 小林 三郎 (元ホンダ 開発者、経営企画幹部) |
出版社 日経BP社 |
本ホームページのいくつものフレームワーク解説のケーススタディ(成功、失敗事例の紹介)で、本田宗一郎の破天荒な行動が、既存のフレームワークを越えて新商品・新規事業を生み出したケースを紹介させていただきました。小林氏が開発をリードしたエアバックの商品化についても事例で取り上げました。
経営学での分析で言えば、本田宗一郎と彼をオヤジと慕う社員達の発想と行動は知識創造論にて分析をされております。さらに深く、分析的な知見を得たい方は、知識創造論のフレームワーク(SECIモデル、ミドルアップダウンマネージメント)の書籍が考察を助けると思います。ただ、私はホンダの躍進は、知識創造論のフレームワークの枠だけには収まらないと感じています。
日本企業における失敗の研究
副題 ダイナミック戦略論による薄型TVウォーズの敗因分析 |
著者 河合忠彦 筑波大学名誉教授 |
出版社 有斐閣社 |
たった10年で激変する社会です。十数年前にはスマホはこの世になく、日常は今とは全く別の世界でした。このようにダイナミックに変化する社会に対応する経営者には、ダイナミック戦略論の導きが有効になります。それと同時に、社員に、組織に、風土に、ダイナミックケイパビリティが無ければ、経営者の良い戦略も実行され、定着できません。だから経営者だけの問題ではありません。経営者も社員もダイナミック戦略とダイナミックケイパビリティのフレームワークを身につけるべきです。令和時代の「学問のすすめ」です。
この書籍の著者の河合名誉教授は、私のMBA卒業論文の指導教授です。また卒業後に先生に誘われた数名でこの書籍化のルーツとなる研究に私も参加させていただきました。
日本の社会の安定や福祉や教育や医療の充実、言い換えれば幸せな社会の実現は、日本企業に活力があり、儲けを生み出している状態でなければ実現しません。(松下幸之助氏のPHP思想)日本企業の活躍の成否は、単に法人の問題ではなく社会の問題でもあるのです。
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