SWOT分析
SWOT分析の重要度ランキング
重要度 A
新商品プロマネ必要度 ★★★★★ 必須教養
理解容易度 ★★★★☆ 容易
活用容易度 ★★☆☆☆ やや難
はじめに
SWOT分析は、ビジネスの基礎教養として習得しておくべきフレームワークの1つです。
日本のビジネスパーソンにも比較的知られているので、組織内で使う際に受け入れてもらいやすいでしょう。
たとえ頭の中まで筋肉と思われるような体育会系の営業課長を相手にしても大丈夫なぐらいの簡易さです。
簡単である反面、実務上の有効性はやや乏しいのが実情です。つまり、このサイトのテーマである新商品・新規事業を成功させていくために有効なアクションプランを導いてくれるようなフレームワークとしてのレベルはあまり高くないものです。
しかしながら、このフレームワークは自らの頭の整理と、関係メンバーの意識の統一化、思考品質の高位平準化に役立つものではあります。
サッカーで言えば、「ゴールを狙うドリブルテクニック」と言うよりも「フットワークを軽くするための柔軟運動と反復横跳びの練習」のようなものです。
スポーツにおいて基礎練習を重ねてインナーマッスルを鍛えておいたほうが確実に成果を出せるように、
ビジネスにおいてSWOT分析は基礎教養として使えるように練習しておくと共に、その課題や限界も把握しておくと良いものです。
また、最後に確信犯としての悪用についても最後に説明をしておきます。
概要
SWOTとは、強み(Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つの頭文字を並べたものです。
経営学の中ではかなり古典的なフレームワークの一つです。図のように4つをマトリクスにして書き並べるのが一般的です。
高校生が文化祭でクラスの出し物を決定する際にも、幼稚園の園児募集(あるいは職員募集)のポスター作りの際にも使えるような汎用性の高さがあります。

4つの視点でビジネスを考察するSWOT分析
強み、弱み、機会、脅威を列挙して並べて、眺めて見ることで、より上位のアイディアを見い出すこともできるようになるでしょう。 あるいは、うっかり見逃してしまいそうな漏れを減らすて失敗を防ぐことにも役立ちます。 こうした「見える化」できるという点でこのフレームワークを試してみる意味はあります。 また、皆で意見を出し合う議論のたたき台つくりとしても意味があります。そうした活動は仲間意識も高めることにも繋がり、引いてはプロジェクトの成功に貢献するでしょう。
なお、この作業の注意点として、強みと弱みの箇所は内部要因の分析から列挙する必要があります。 一方、 機会と脅威の箇所は外部要因の分析から列挙するのです。これらを混ぜないようにしましょう。
また、他のフレームワークの知見と併用することで、より良い分析を行うことができるようになります。 例えば主に内部要因の抽出には、マーケティングの4P((Production(商品)、Price(価格)、Promotion(販売促進)、Place(立地・物流))の視点で考察してマトリクスの表に書き入れると良いでしょう。
あるいは、5Focesのフレームワークと併用して考えることでも良いでしょう。(「供給企業の交渉力」「買い手の交渉力」「競争企業間の敵対関係」という3つの内的要因と、「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」の2つの外的要因)
※5Forces、マーケティングの4Pは、それぞれフレームワーク説明の章を理解してください。
SWOT分析が一段落したら、次にクロスSWOT分析も行うとさらに良いでしょう。ここでも4つのパターンで状況を考察します。

さらに4つの視点でビジネスを考察するSWOTクロス分析
演習:ケーススタディ(具体的な商品の事例で考察)
テスラ自動車がEVに参入しようとした際に、創業者のイーロン・リーヴ・マスク氏は頭の中で、下記のようにSWOT分析で考えを巡らせたかもしれません。
- 強み
既存の自動車業界のしがらみがない。失うものはない。なんでもできる。(既存の施設(工場)、従業員、販売系列網が無い。)
金がある。投資を集めることができた。
アイディア(パナソニックの汎用リチウム電池を使って車を走らせる) ←5Forces:供給企業の交渉力
ライバルはいない。(唯一無二の存在) ←5Forces:買い手の交渉力 - 弱み
自動車を作ったことが無い。構想通りに期待した性能・機能を得られるかわからない。
- 機会
EVはこれらの産業であると世間で認知されている。 ←5Forces:代替品の脅威
アメリカの自動車産業の衰退している。 ←5Forces:競争企業間の敵対関係
IT業界は成長(自動運転、コネクテッドカーなど)。 ←5Forces:新規参入業者の脅威
お金を集めやすい環境にある
- 脅威
既存の自動車会社のEV開発スピードが勝れば負ける。
大規模な開発投資・設備投資で資金が必要だが、投資家の期待に応え続けられないと出資が続かず息切れして倒れてしまう。

SWOT分析でテスラを考察
- 強み×機会
衰退している既存の自動車会社から、設備(工場)や技術者を入手しやすい。
→マーケティングの4P:Production(商品)
既存のバッテリーを流用するので、専用開発バッテリーよりも安く電池を用意できる。
→マーケティングの4P:Price(価格)
- 弱み×機会
自動車の販売網は持たないが、広く普及したインターターネットで宣伝、販売すれば良い
→マーケティングの4P:Place(販路)/Promotion(販促)
- 強み×脅威
IT系に開発の主軸を置き、既存の自動車メーカーも手掛けていない自動運転技術を装備する。
→マーケティングの4P:Production(商品)
- 弱み×脅威
ネットを通じててマスク自身が性能や開発状況を逐次アピールして世間の期待を高める。
→マーケティングの4P:Promotion(販促)

SWOTクロス分析でテスラを考察
これらは、シミュレーションの例であり、マスク氏がこうした思考を経てEV業界に打って出たという話ではありません。
実際のテスラ社は、閉鎖予定のGMの工場を買収し、新規事業を探していたパナソニックとリチウムイオンバッテリー供給の契約を行いました。 単に電動で走らせる車ではなく、IT技術を駆使して自動運転機能を搭載した車として高い付加価値を付けました。 ツイッターなどで、マスク自身が開発状況を説明し、投資家や潜在顧客に働きかけを行いました。(言い方が過激なのでしばしば物議を醸し出しましたが、これも計算の上のことだったのかもしれません) 受注もインターネットで受けるため、従来のような自動車ディーラー網の整備は行いませんでした。
そして、テスラ社は、最初のEV ロードスターの市販を実現したのでした。
EVの事業化に成功したマスク氏は、次は宇宙ロケットの事業に乗り出します。それも再使用可能型でコストを大幅に下げた宇宙ロケットという前例の無い事業です。
新商品を成功させるためには
新商品・新規事業を担うリーダーの課題に、SWOT分析のフレームワークは具体的な対応方法を導いてくれるものではありません。
SWOT分析の根本的な課題は、列挙した各項目のアクションの重要度、取り組む順番、関係性(例えば、相乗効果の有無や度合い)が見えてこないことです。
優先順位を決められないのだから戦略の立案には補助的な能力しか持ち得ないことになります。
しかしながら、過度な期待は持たずとも「見える化」により、自らの頭の整理ができることの有用性からこのフレームワークは行っておく価値はあります。
また、関係者と共にSWOT分析を行うことで関わるメンバーの視点を揃えることができることも有用性です。
新商品・新規事業は、想定外の様々なハプニングも起こります。そんな時もメンバーの意識が共有されていれば、変化に対応し、あらぬ失敗を防ぐことに役立ちます。
よくある失敗・注意点
同様の経営コンサルタントにも注意が必要です。
最後に
ただしこれは諸刃の剣であり、起案者の主観に基づく不適切なアクションプランに組織をミスリードしてしまう危険性も持ち合わせていることを忘れてはなりません。 しかし、敢えて、確信犯としてこれを悪用することも考えられます。 前例踏襲でしか動かないようなダメ組織や、目先の課題しか見ず大局観に立ったアクションは怯えて踏み出せないような膠着した組織を動かすとしたら、 毒をもって毒を制するように、このフレームワークをうまく使って、あなたの主観的判断を、あたかも組織が取るべき戦略のように見せて、 組織をあなたの思った方向にリードしていくことが出来るかもしれません。

SWOT分析でプレゼンに根拠があるように見せる
