新規事業・マーケティング研究所
トップフレームワーク競争地位戦略

競争地位戦略

競争地位戦略の重要度ランキング

重要度         C
新商品プロマネ必要度 ★★★☆☆ 教養
理解容易度      ★★★★☆ 容易
活用容易度      ★★☆☆☆ やや難

はじめに

 「競争地位 4タイプ」のフレームワークのフレームワークの理解は非常に容易です。掌握しておきましょう。 しかし、往々にして新商品、新規事業の企画や商品の市場投入時の戦略を考える際に、この基本的なことを忘れがちなので実践時には注意するようにしましょう。
 ランチェスターの法則も理解することで実践力も高まります。ただ、残念ながら、このフレームワークは最近では適用できないケースが少なくありませんので、「使える機会があれば使う」という程度のモノです。


概要

マーケティングの権威であるフィリップ・コトラーによって1980年に「競争地位 4タイプ」は提唱されました。以下の4つのカテゴリーに分類し、それぞれの立場で採用すべき戦略も提示しております。
  マーケットリーダー
  マーケットチャレンジャー
  マーケットフォロワー
  マーケットニッチャー

それぞれについて解説します

  • マーケットリーダー
     ある市場でトップシェアを誇る企業がこれに分類されます。
     例えば、高いシェアを獲得し豊富なラインアップを揃えます。トップシェアですからコストリーダーシップ戦略、規模の経済などが有効になります。 これらの効果により、競争相手に対して横綱相撲が取れます。つまり、挑戦者を受け止めて、ひねり潰すことができます。
    こうした企業が採るべき戦略は、市場規模を拡大することです。市場規模の拡大によりトップシェアである企業が最も恩恵を受けるためです。

  • マーケットチャレンジャー
     業界で上位のシェアを持っているもののトップではない企業は、チャレンジャーと分類されます。
    こうした企業が採るべき戦略は、シェアを拡大してトップを奪うことが目標となります。ただし、トップ企業との真っ向勝負では負けてしまうため、差別化をおこなって少しずつシェアを獲得していくことが重要となります。 ただ、この提言に従うだけではマーケットリーダーに追いつくことは難しいのが現実です。自分より下位の企業のシェアを奪ったり、企業買収をおこなったりして、シェアを高め、規模を高め、マーケットリーダーに勝つのです。

  • マーケットフォロワー
     トップでもチャレンジャーとも言えない企業はフォロワーです。
    こうした企業が採るべき戦略は、チャレンジャーと違って業界トップを目指すよりも、他社の活動を模倣してコストを抑えつつシェアを微増させることです。

  • マーケットニッチャー
     シェアは高くないが、ニッチな分野に資源を集中し、独自の地位を築く企業です。差別化できる商品を有していなければ実現できません。 規模は大きくないものの高収益だったり、高いブランドを持っていることがあります。

競争地位の4タイプ
 多くの場合、各社のシェアから地位が決まってくる
  


演習:ケーススタディ(具体的な商品の事例で考察)

  • マーケットリーダー
     国内の自動車業界ではトップシェアのトヨタがマーケットリーダーです。ハイブリッドカーもミニバンも豊富なラインアップを揃え、それぞれ高いシェアを獲得しております。 トップシェアですからコストリーダーシップ戦略、規模の経済などが有効になります。(それぞれのフレームワークは別の章で把握してください)。 これらの効果により、競争相手に対して横綱相撲が取れます。つまり、挑戦者を受け止めて、ひねり潰すことができます。
     東京オリンピック2020の会場周辺での自動運転の試行もマーケットリーダーだからこその活動です。市場規模の拡大によるメリットを一番受けるのがトップシェアであるマーケットリーダーだからです

  • マーケットチャレンジャー
     国内の自動車業界では、ホンダがチャレンジャーに分類と言えるでしょう。ハイブリッドカーもミニバンもトヨタに負けないようにラインアップを揃えようとしております。しかしが、トヨタにはとても及びません。
     でも、かつて、世界中のどの自動車メーカーも実現できなかった排ガス規制をクリアするエンジンを搭載したシビックを開発しましたし、アメリカにいち早く進出して現地工場を建設することでも、トヨタの先を行く活動をしばしば行います。 F1レースに挑戦し優勝することや、制御技術を発展させた二足歩行ロボットを実用化させて企業イメージが高まるような活動も行ってきました。 長年、トヨタの看板車種で国内シェアナンバー1だったカローラーをナンバー1から引きずり下ろすスマッシュヒットとなったフィットを開発したのもホンダです。
     コトラーは「チャレンジャーは差別化した商品を」との提言をしておりこれは正しいのですが、未だにホンダはトヨタに追いつけるメドも立たない状況です。この提言に従うだけではマーケットリーダーに追いつくことは難しいのが現実です。

  • マーケットフォロワー
     国内の自動車業界で言えば、日産、三菱、マツダ、ダイハツ、スズキ・・・などです。トヨタにはとても及びませんし、ホンダのようにトヨタに勝負を挑むような気概も見られません。(できません)
     ただ、マツダは一芸をもっており、ロードスターという一部の顧客から高い人気を持つ安価なスポーツカーを作ることを得意としております。こうした一部のファンに根強く支持される得意技術を持つことでニッチャーの側面も持っています。

  • マーケットニッチャー
     国内の自動車業界で言えば、スバルです。スバルは水平対向エンジンと4WDシステムによる走破性の高い車をつくることを得意としております。 一部のファンに根強く支持される得意技術をもっており、スバルの熱烈なファンはスバリストと呼ばれたりします。国内自動車メーカーでこのような熱烈なファンを持つ企業は他にはありません。 差別化できる商品を有しているからできることです。
     高級スポーツカーのポルシェやフェラーリなどもマーケットニッチャーと呼べるポジションです。


よくある失敗・注意点

 あなたの上司先輩同僚は、競争地位4タイプを理解して仕事をされているでしょうか?チームの皆が立ち位置を理解した行動を取ってているでしょうか? あるいは、逆にこのフレームワークが適用できないのにも関わらず、無理に適用してヘンなことになったりはしていませんか?

 必ずしも市場の競争が4つの分類に当てはまるとは限りません。 例えば、トップの数社が拮抗しているような場合、わずかに片方のシェアが上回っているだけでは、マーケットリーダーとしての立場にはならず、「競争地位 4タイプ」のフレームワークはあまり参考にならないでしょう。 全日空と日本航空の2社は、どちらがマーケットリーダーで、片方がフォロアーであると言えるほどの地位の差がありません。 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は三つ巴とも言える状態で、どの会社もマーケットリーダーとしての行動が取れるとは言い切れない状態です。 スマートフォンでも、かつてはアップルがマーケットリーダーと呼べるようなポジションにおりましたが、今では、サムスン電子やファーウェイが同格で競争しているような状態です。 現在の国内のTV市場においても、マーケットリーダーと言えるような企業は存在していないでしょう。また、マーケットニッチャーと呼べるような企業もありません。
 このような状況にある市場では、「競争地位 4タイプ」のフレームワークはあまり参考にならないでしょう。もちろん、多少の含蓄はあり無意味とは言いませんが。

 また、注意しなければならないのは、プロダクトライフサイクルのステージです。 プロダクトライフサイクルの導入期では、どの新商品が市場の評価を得て高いシェアを獲得していくことになるのかは、まだ混沌としている状況です。 統計上でのトップシェアの商品は便宜的にはありますが、まだどの商品にもチャンスがある状況です。 例えば、EVの世界で、リーフの販売でシェアが1位の日産がマーケットリーダーの地位で、テスラがチャレンジャーの地位とは思わないほうが良いでしょう。
 だから、プロダクトライフサイクルの導入期の段階にあるような、世の中に存在が確立していないような革新的な新商品をこれから売りだそうとしている人には、影響が低いフレームワークです。 もし、あなたが画期的な新商品・新事業にチャレンジしようとしているのであれば、このフレームワークに縛られずに自由に発想して活動計画を練りましょう。
 このフレームワークは、世の中に普及して企業間の地位が確立されている場合に有効となるってくるものだからです。プロダクトライフサイクルが成長期を超えてから使えるようになるものでしょう。 あなたの上司先輩同僚が無理にこのフレームワークを使おうとしても惑わされることなく信念を貫きましょう。


新商品を成功させるためには

 あなたの新商品・新規事業を成功させるためには、あなたの立場が4つのどこにあるのかを理解し、その地位に適した行動を考慮することが成功には不可欠です。 その一方で、いつでも、このフレームワークが適用できるかと言えば、条件や限界があることも留意しなければなりません。

  • マーケットリーダー
     横綱相撲ができます。後の先という相撲の考え方が適用できます。相撲のみならず、柔道、剣道、空手、ボクシング・・などで用いられる強者の手法です。 具体的には、チャレンジャーやフォロワー、ニッチャーに先に新商品の投入を仕掛けさせ、それを上回る新商品を相手を上回る性能・価格・生産力・販売力・宣伝力で逆襲して制圧して勝ちます。リーダーだからこそできる活動です。
     かつての松下電器はソニーやシャープなどが目新しい新商品を投入すると、類似の商品を追いかけて投入し、すぐに市場を制圧しシェアを奪い取る姿がありました。その姿は”マネシタ電器"と揶揄されました。 しかし、後の先ができるのは、横綱相撲のように、相手の取り口を見極め相手がどんな手を仕掛けてきてもそれを上回る力量で勝てる強さがなければ実現できません。 マネシタ電器の場合、競合をすぐにキャッチアップできるだけの基本的な開発力や販売力を常に保持しているマーケットリーダーだから機を逃さずキャッチアップできたのです。なお現在のパナソニックは横綱ではありません。

  • マーケットチャレンジャー
     マーケットリーダーを上回ることをしたいのですが、相手は強くてなかなか勝てません。だから自分より下位のシェアで経営体力も劣るフォロアーを攻めてシェアを奪い、自社のシェアを高めるのです。
     ホンダの事例のように差別化商品の投入でトヨタを上回る取り組みをしているだけでは、いつまでたっても追いつけません。だから、ホンダは、日産や、三菱やマツダからシェアを奪う商品を投入することが望ましい姿です。 ただ、世間が期待する”ホンダらしさ”から乖離してしまうので、ホンダがこの選択をすることは別の弊害を考慮する必要もあり難しい所です。

  • マーケットフォロワー
     マーケットリーダーやマーケットチャレンジャーの真似をすることがコトラーの提言ですが、最近では”一強総取り”の様相を見せる事業も多いので、マーケットフォロワーが生き残ることも難しいケースも多くなっています。
     このような場合は、マーケットニッチャーの世界に移行する活動が欠かせません。

  • マーケットニッチャー
     差別化できる商品を維持し続けられなければなりません。
     事例で挙げた高級スポーツカーのポルシェやフェラーリなどは、これからも差別化を維持しなければなりません。しかし、EV時代になっても両社が生き残れるのかは疑問です。 でも、取り組まなければ企業の存続が危うくなるので実は環境の変化に弱いのです。差別化できる技術やブランドを持っていることに慣れると”ゆでガエル”になってしまう恐れがあることを意識し続ける必要があります。


最後に

 既に述べておりますように、現実のビジネスでは適用できるケースが多いとは限りません。 ANAとJALの関係のように、NTTドコモ、au、SoftBankの関係のように、アサヒビール、キリンビール、サッポロビールの関係のように・・・などなどに見られるようにです。 とは言え、ビジネスマンの基本的な教養として押さえておきたいフレームワークです。